臨床病理学教室

 

A. 研究課題の概要

 

1. 細胞内情報伝達経路による脂質代謝酵素系活性制御機構に及ぼす酸化的ストレスの影響と動脈硬化症におけるその意義

 自動酸化油やタバコの副流煙等の酸化的ストレスをラットに与えた飼育実験により, 肥満や動脈硬化症成立要因としてリポ蛋白リパーゼ (LPL) やコレステロールエステラーゼ (ChEase) 等の脂質分解酵素の意義を示す研究を行い以下の事項がわかった。1)血中に増加した過酸化脂質は酸化変性LDLを生成し, 2)これを通して又は直接に血管壁表在LPL活性を低め, 3)或いは酸化変性LDLを介して細胞に取り込まれ同じく酸化に弱いChEaseへ阻害的に作用し, 血中脂質の変化や細胞内ChE蓄積の方向へ働く事が示唆された。現在は, 細胞情報伝達経路で重要な役割をするプロテインキナーゼによるChEase活性化機構におけるラジカルの影響について動物実験や血管平滑筋細胞培養を用いて研究を進めている。

 

2. 酸化的ストレスに対する生体応答: 老化や病態に於ける抗酸化ストレス蛋白質の動態に関する研究

 フリーラジカルに対する生体の抗酸化防御能の検討課題として, 細胞内酸化還元に関与し, 又それを介して遺伝子発現にも関わっているSH蛋白質Thioredoxinについて, 加齢 (内因性) や受動喫煙 (外因性) フリーラジカル負荷による各臓器組織に於けるその変化を, 他の抗酸化物質や抗酸化酵素の動態変化を指標とした細胞の酸化還元状態並びに細胞諸応答を調節する情報伝達系プロテインキナーゼとの関連も合わせて検討している。

 

3. 肺癌細胞内情報伝達経路へのフリーラジカルの影響と抗酸化ストレス蛋白質の動態に関する研究

 癌化起源が異なる肺癌細胞や正常2倍体肺細胞についてフリーラジカル各種負荷によるその情報伝達経路の修飾変化とそれに対する各種抗酸化物質やThioredoxinの効果を検討している。研究過程で動物や培養細胞に使用するヒトThioredoxinはATL細胞からcDNAを作成し, E. coliに発現させてリコビナントThioredoxinを自家調製する方法を確立し, 使用している。

 

4. 喫煙や受動喫煙の生体へ及ぼす影響の生化学的研究

 1)タバコ副流煙と共に体内に導入されたフリーラジカルについて, DNAの酸化的損傷 (8-hydroxydeoxyguanosine, 8-OHdG) による点突然変異誘導を介する発癌イニシエーターとしての役割や, プロテインキナーゼC (PKC) 活性化を介する発癌プロモーターとしての役割を受動喫煙ラット個体で検討し, 2)関与するラジカル種をヒト肺癌培養細胞で確認している。3)又, 非喫煙者, 喫煙年数10年以下と10年以上喫煙者について喫煙による細胞DNAの酸化的損傷量を知るために末梢白血球8-OHdGを指標に検討している。ヒト, ラットいづれの場合も個体の酸化還元状態との関連で検討し, 受動あるいは能動喫煙程度の指標として血中や尿中コチニン量を用いている。

 

5. K-, N-, H-ras遺伝子変異の同時検出法の確立とその応用

 

 

B. 研究業績

 

4. 報告

H97001: 真栄平房子, 宮城郁子, 中附加奈子, 福岡美樹, 安里剛, 武居洋, 江口幸典 (1997) 受動喫煙ラット肺のPKC活性, 8-ヒドロキシグアノシンの蓄積, K-ras癌遺伝子の活性化について. 生化学 69 1421.

 

H97002: 座波総子, 真栄平房子, 江口幸典 (1997) アレル特異的増幅によるK, H, N-ras遺伝子変異同時検出の試み. 臨床化学 26 Supp 3 58c.

 

H97003: 宮城郁子, 真栄平房子, 大田千亜紀, 瑞慶覧陽子, 江口幸典, 仲里幸永 (1997) HTLV-1感染者血清の酸化還元状態. 臨床化学 26 Supp 3 69c.

 

5. その他

M97001: 原嶋奈々江 (1997) ラット血管平滑筋細胞コレステロールエステル加水分解酵素と燐酸化によるその活性調節への活性酸素の影響. 平成8年度修士論文1-27.