臨床心理学教室

 

A. 研究課題の概要

 

1. 精神障害者への認知, 態度に関する国際比較研究

 精神病および精神障害者に対する態度 (Attitude) 研究は, その社会における社会的通念や偏見, ステレオタイプの検討に有用であるだけでなく, 精神障害者に対する医療・サービス, 関係者の教育・訓練を考慮する際にも無視することのできない領域である。当教室におけるこれまでの研究としては, 高校教師と精神衛生専門職 (精神科医, 臨床心理学者, ソーシャルワーカー, 看護者等) を対象に, カナダと日本, オーストラリアの比較研究を試みてきた。これら成果の一部カナダと日本の高校教師と看護者の国際比較については, 1993年度世界精神衛生会議 (World Congress for Mental Health) において発表し, 論文にまとめた (Ryukyu Med J 15(4), 165-172, 1996)。

 

2. 精神障害者の援助希求過程に関する研究

 精神障害の発生に伴う患者と家族の対処行動 (Coping behavior, help-seeking behavior) を明らかにすることは, 精神障害の治療とサービス, とりわけ地域の精神衛生サポートネットワークを考える際に有効である。本研究は, これまで主として記録と面接に依拠したretrospectiveな調査が中心であったが, 今後はprospectiveな調査方法をも工夫していくつもりである。これまでに得られた成果については, すでに沖縄心理学会, 日本民族衛生学会沖縄地方会, 世界精神衛生会議 (ニュージーランド, メキシコ), 分裂病に関する国際会議 (International Conference「schizophrenia 1992」(カナダ) )等で発表済みである。また一部は論文として公刊した(Ryukyu Med J 15(4), 173-179, 1996)。

 

3. 沖縄の自殺に関する研究

 自殺死亡率と社会環境との関連を明らかにすることは, 予防医学, 社会精神医学的に重要な課題である。本テーマに関しては, 過去の沖縄の自殺死亡率の変動について, 主として人口動態統計学的に種々の統計的観察を行ってきた。今後はさらにその増減要因 (コホート要因, 精神障害との関連等) の解明に向けた研究をすすめていく予定である。これまでの成果については, 日本自殺予防学会, 沖縄心理学会, 日本社会精神医学会において報告し論文としても発表してきた (日社精医誌 3(1), 25-32, 1994, Psychiatry and Clinical Neurosciences 50(5), 239-242, 1996, Ryuukyuu Med J 18(1) 1998)。

 

4. 沖縄における長寿要因の心理学的研究

 周知のとおり沖縄県は国内有数の長寿地域である。

人口10万人あたりの百歳以上高齢者率, 平均寿命, 平均余命からみても女性の最長寿地域としての地位はゆるぎない。一方男性は凋落の途上にある。その要因の一つとして男性自殺率の近年の上昇がある。長寿に関わる精神保健, 心理学的要因の解明は重要であるにもかかわらず, これまで十分な研究がなされてきたとはいえない。当教室ではこの分野に関する取り組みとして沖縄本島北部今帰仁村をフィールドに今年度からいくつかの調査に着手し, 現在その結果をまとめつつある。次年度以降も厚生省長寿研究プロジェクトと連動させたいくつかの研究を継続させる予定である。

 

5. ターミナルケアとそれに関連するバーンアウトの研究

 ターミナルケアに従事する看護者のバーンアウトについては, 看護者の個人的特性や死生観, 死への不安感など各種要因との関連を明らかにするため過年度に国内で緩和ケア (ホスピス) を実施している全国17施設256人の看護者を対象に調査を行い, その成果を精神衛生学会誌 (こころの健康12巻2号) に掲載発表した。今年度はユーモアとバーンアウトについての研究が一部行われたが, 次年度以降もこの分野でのいくつかの研究を継続・発展させていく予定である。

 

 

B. 研究業績

 

1. 原著

G97001: Ohi G, Uemura I, Akabayashi A, Kai I, Miyasaka M, Naka K (1997) Preventive behaviors against HIV transmission adopted by Japanese commercial sex workers (CSWs). Environ Health Prev Med 2 132-134.

 

G97002: Nishimura-Takahashi T, Akabayashi A, Kai I, Gabigon J, Ohi G, Naka K (1997) Social and behavioral factors associated with condom use among female commercial sex workers (CSWs) in Tarlac, the Philippines. Environ Health Prev Med 2 167-171.

 

G97003: 影山隆之, 名嘉幸一 (1997) 自殺予防活動としての「いのちの電話」の新しい評価方法. こころの健康 12 23-32.

 

G97004: 福島裕人, 名嘉幸一, 石津宏, 與古田孝夫 (1997) ターミナルケアに従事する看護者のバーンアウトとその関連要因. こころの健康 12 33-44.

 

2. 総説

S97001: 井上新平, 岡田和史, 本木洋介, 下寺信次, 名嘉幸一 (1997) 東アジア地域における精神科リハビリテーションの現況. 精リハ誌 1 36-43.

 

4. 報告

H97001: Matthew Allen, 名嘉幸一, 崎原盛造 (1997) 沖縄県における高齢者の自殺に関する考察 -比較文化的視点から. 「沖縄の気候・風土と長寿に関する研究」 (主任研究者・崎原盛造) 平成8年度厚生科学研究補助金・長寿科学総合研究事業成果報告書 47-53.

 

H97002: Allen M, Naka K, Sakihara S (1997) Reflection on ageing and suicide in Okinawa: A cross-cultural perspective. 「沖縄の気候・風土と長寿に関する研究」 (主任研究者・崎原盛造) 平成8年度厚生科学研究補助金・長寿科学総合研究事業成果報告書 55-65.

 

H97003: 名嘉幸一 (1997) 沖縄における性・年齢別自殺死亡率の経年変化(1960〜1990). 琉球医会誌 17 121.

 

H97004: 福島裕人, 名嘉幸一, 石津宏, 與古田孝夫 (1997) ターミナルケアに従事する看護者のバーンアウトとその関連要因. 琉球医会誌 17 122.

 

H97005: 石津宏, 陳文杰, 翁長正人, 松本庄司, 與古田孝夫, 名嘉幸一, 比嘉盛吉, 仲本政雄, 吉田延 (1997) 琉球音階を用いた音楽療法の心理・生理的反応について -沖縄の社会文化的環境と精神衛生 (13). 心身医 37 633-634.

 

H97006: Ishizu H, Yokota T, Ura S, Quan X, Shimoji M, Shimoji T, Naka K, Nakamoto M, Yoshida N (1997) Consciousness and attitudes toward AIDS and HIV-infection among college students of Okinawa, Japan and Beijing, China -Mental Health and Psychosomatic viewpoints. 14th World Congress on Psychosomatic Medicine (proceedings) 172.

 

H97007: 崎原盛造, 名嘉幸一, 芳賀宏, 安村誠司, 新野直明, 鈴木征男 (1997) 沖縄の長寿とその社会・文化的要因に関する研究. 厚生省長寿科学総合研究事業・老年病分野長期縦断疫学プロジェクト平成9年度研究発表会.