産科婦人科学講座

 

A. 研究課題の概要

 

T. 婦人科学

 

1. 子宮頚癌とヒトパピローマウイルス (HPV) 感染の相関に関する研究 (前濱俊之, 長井裕, 東政弘, 金澤浩二, 生化学第2講座との共同研究)

 頚癌では大部分の癌細胞にHPVゲノムの組み込みがみられる。HPVのE6, E7遺伝子は癌抑制遺伝子産物P53, RBタンパクと結合し, これらを不活性化することから, 頚癌の発生と増殖に深いかかわりをもっている。遺伝子増幅法 (PCR法) によるHPV DNAの検出, その型判定法を確立し, 以下の検討を進めている。

a. 沖縄県女性におけるHPV陽性率

 沖縄県女性のHPV感染状況を知ることを目的とし, 子宮がん検診受診者および外来受診者について, その擦過細胞のHPVを検索した。HPV DNAの検出には, L1 consensus primerを用いてPCR法を行った。正常細胞診 (classTおよびU) 3, 976例についての年齢別HPV陽性率は以下のとおりであった。30才以下: 18.7% (45/241), 31〜40才: 8.0% (47/587), 41〜50才: 9.3% (76/817), 51〜60才: 10.0% (106/1, 059), 61〜70才: 10.2% (104/1, 018), 71才以上: 9.8% (26/263)。すなわち, 20才代に高く, 30才以上では低下の傾向が窺われる。年齢別HPV陽性率を明らかにすることは, HPV感染の自然史を考察する上に重要な情報となる。欧米でも30-35才以上になると陽性率は低下するとの報告があり, 今後はさらに10代, 20代の例数をふやして検討する必要がある。 

b. 頚癌転移巣におけるHPV DNAの検索と再発リスクの検討

 リンパ節転移癌細胞におけるHPVゲノムの存在様式は原発巣癌細胞のそれと一致することが知られている。リンパ節のHPV DNA検出は, 病理診断困難な微小リンパ節転移を示唆している。そこで, HPV陽性頚癌92例の手術時に得られた疑わしいリンパ節 (421検体) についてHPV DNAを検索した。病理学的転移の認められた39例では, 全例がHPV DNA陽性であった。病理学的転移のなかった382例中374例はHPV DNA陰性であったが, 8例は陽性であった。この8例の中から, その後リンパ節転移が明らかとなり, 予後不良となった症例が見られた。このような検索は, 頚癌のひろがりを把握する上により有力な情報となると同時に, 臨床へのより迅速なフィードバックが可能となるものと期待される。

c. 頚部異形成, 上皮内癌とHPV

 異形成とHPV感染との経時的相関について検討している。症例は, フォローアップにおいて, HPV DNAがはじめから陽性で持続しているもの, はじめから陰性であるもの, 陽性であったが陰性化したものに群別され, 全体として, 細胞診, コルポ診とHPV陽性/陰性とは概略相関していた。また, 上皮内癌について, 治療的円錐切除後のフォローアップにHPV陽性/陰性の推移が有用な情報となることを観察した。すなわち, 59例の検討では, HPV DNAが持続的に検出された8例の中からのみ術後異常細胞診が検出され (4例), 陰性化した51例からは異常細胞診は検出されていない。今後, さらに症例を重ね, また, フォローアップ期間を延長して検討する予定である。 

d. 2-deoxyglucose によるHPV 18選択的遺伝子発現抑制に関する研究 (前濱俊之, 金澤浩二, ドイツ国立がん研究所との共同研究)

 腫瘍細胞glucose 代謝に拮抗作用を示す 2-deoxyglucoseを, ともにHPV 18陽性の造腫瘍性細胞HeLa cellと非造腫瘍性細胞444 cellに投与し, HPV E6/E7の遺伝子の発現制御効果を検索した。その結果2-deoxyglucoseは腫瘍細胞のHPV18遺伝子発現を選択的に抑制し, またそのapoptosisを誘導することが示めされた。したがって, HPV陽性の病巣に対して, 治療的応用の可能性が示めされた。

 

2. 子宮頚癌の集学的治療 (諸見里秀彦, 渡嘉敷みどり, 伊波忠, 島袋美奈子, 東政弘, 金澤浩二)

a. 難治性子宮頚癌に対するNeo-adjuvant chemo-therapyに関する研究

 原発巣が著しく大きな難治性頚癌に対し, 照射療法前Neo-adjuvant chemotherapyとして高用量Cisplatinによる超選択的動注療法の臨床的価値を検討している。1987年〜1992年に治療した69例について, Neo-adjuvant chemotherapy群では, 照射療法単独群と比較して, 高い局所制御率と生存率を得られ, また治療後のQOL改善に有用であることを明確にした。さらに, Cisplatin誘導体Nedaplatinを含む併用化学療法によるNeo-adjuvant chemotherapyを導入し, 比較検討中である。

b. 頚部腺癌とその治療的対応に関する研究

 過去20年間に治療した頚癌1, 919例の治療成績の分析から予後背景を検討した結果, いくつかのリスク因子が抽出された。なかでも腺癌ないし腺癌成分を含む癌は有意に高い再発率であった。加えて, 腺癌が相対的にも絶対数においても増加しつつある。Ib期からIV期癌において腺癌の占める比率は, 1976年〜1982年では5.8%(21/361例)であったが, 1983年〜1990年では15.4% (71/460例), 1991年〜1995年では20.4% (62/304例) と増加しており, 新たな化学療法の導入など, 腺癌に対する対策を検討中である。

c. 進行頚癌の集学的治療

進行頚癌に対し, 上記動注化学療法の他に, 組織内照射療法, 術中照射療法の適応について検討している。さらに, 放射線療法と化学療法の同時併用療法の治療効果について, とくに薬剤の投与方法, 投与量, 生物学的効果, 評価方法などを検討している。再発症例に対しては, 骨盤除臓術を考慮するとともに, 携帯的持続動注療法を積極的に取り入れ, 患者のQOLを考慮したターミナルケアを行っている。

 

3. 卵巣癌における血管内皮増殖因子 (VEGF) の検出とその臨床的意義 (前濱俊之, 神山和也, 長井裕, 金澤浩二)

 卵巣癌はなお婦人科癌死の主要な原因となっており, 現在まで, 多数の臨床病理学的因子 (腫瘍サイズ, 進行期, 組織型, grade etc) が検討されてきたが, 的確な予後推定因子は見い出されていない。最近, 腫瘍の増殖, 転移と血管新生との関係が注目され, とくに血管新生を促進する血管内皮増殖因子 (VEGF) への関心が高まっている。当科では, 摘出卵巣癌組織について, VEGF発現を免疫組織染色 (in situ hybridization法) にて検出し, 臨床病理学的因子および予後との相関性を検討している。また, 腫瘍そのものの生物学的活性に関係するいくつかの増殖関連抗原についても検索している。得られた所見を術後臨床経過と対比させ, とくに再発との関係を解析し, 早期卵巣癌に対する術後化学療法の適応への情報など, その臨床的意義を求めて研究を進めている。

 

4. 婦人科悪性腫瘍の妊孕能温存治療に関する研究 (渡嘉敷みどり, 伊波忠, 長井裕, 神山和也, 東政弘, 金澤浩二)

 若年婦人の悪性腫瘍の治療に際し, 生命予後を損なわずに妊孕能温存を図ることが可能か否かは臨床的に大きな問題となる。それぞれの予後因子を解析することによって, 妊孕能を温存できそうな症例を選別することが可能となる。個別化治療について以下の例を検討中である。@子宮頚癌の0期, Ia期症例には, レーザー円錐切除術による保存的治療を試みている。治療後のfollow upにおいてHPV DNAの検索も併用しており, その臨床的意義を検討中である。A子宮体癌の高分化型腺癌の一部には, 内視鏡的診断を加味した厳格な症例の選別により保存的療法(ホルモン療法など) を試み, その治療限界を検討している。これに関連して子宮体癌および子宮内膜増殖症の内視鏡的形態学を研究している。B卵巣癌, 中でも悪性胚細胞腫瘍では, 積極的に妊孕能温存治療を行っており, また, 表層上皮性間質性卵巣癌のIa期, またIb, Ic期についても妊孕能温存のための術式と術後化学療法を検討している。現在までに, 治療後の妊娠・分娩例を経験しているが, 化学療法中の卵巣機能内分泌的保護という新たな問題が出てきている。これに対し, GnRHaや経口避妊薬による予防効果を検討している。

 

5. 子宮体癌の内視鏡的およびCT, MRI画像的診断研究 (伊波忠, 沈泓, 東政弘, 金澤浩二)

 体癌の内視鏡診断法について研究を進めており, 子宮鏡的に有茎性病変と無茎性隆起性病変(結節性病変) に分けて観察すると癌の伸展様式に差が見られることから, これらの形態的変化は, 重要な生物活性の差異を示しているものと推測している。これらの所見に基づいて, 子宮体癌の初期病変における筋層浸潤の有無を推測する内視鏡的所見を研究中であり, 術式の決定に有用な情報となるか否かを検討中である。

 また, CTとMRIによって病変の筋層浸潤の有無, 浸潤の深さを一層正確に診断するための解析を進め, 術式決定への有用な情報となることを確立しつつある。

 

6. 子宮頚癌・体癌術後深部静脈血栓症の予防に関する検討 -リンパ節郭清時の後腹膜無縫合の効果- (中山美奈子, 神山和也, 照屋陽子, 東政弘, 金澤浩二)

 術後の深部静脈血栓症 (DVT) は, 時に致命的な肺塞栓症 (PE) 発症の原因となりうる重要な術後合併症である。これまで当科では, DVTの軽微な症状を捉えて早期ヘパリン投与を行うことがDVTの診断と治療に有用であること, さらに重篤なPEを予防し得ることを明らかにしてきた。現在, DVTの発症予防の観点から, リンパ節郭清を伴う手術後のリンパシスト形成がDVT発症に関与しているという考えのもと, 後腹膜を無縫合とすることでDVTの発症を減少し得るかどうか検討をすすめているところである。1993.8月〜1997.12月に頚癌や体癌の後腹膜リンパ節郭清を含む根治手術を施行した199例中52例 (26.1%) と高率にDVTの発症をみた。手術時に後腹膜を縫合した群, 無縫合の群でDVTの発症頻度を比較した結果, 前者で31.1%, 後者で10.4% と有意に無縫合群でのDVT発症頻度の減少を認めた(p<0.01) 。また, 後腹膜無縫合に起因すると思われる後障害は今のところ認めていない。リンパ節郭清を伴う婦人科手術時に, 後腹膜を無縫合とすることは, 術後のDVT発症予防に効果があるものとして, 症例を重ねて検討中である。

 

U. 生殖医学

 

1. 受精卵着床期の子宮内膜に関する内視鏡的, 超音波断層的診断 (宮城博子, 神山茂, 正本仁, 照屋陽子, 宮良美代子, 金澤浩二)

a. 内視鏡的研究

 月経周期による子宮内膜の内視鏡的所見について, 正常の場合には, 分泌中期 (着床期) においてリング状腺開口と樹枝状ないし静脈瘤様血管を呈することを明らかにした。また, 不妊症患者で検討したところ, その約40%に着床期内膜所見が不良であること, 着床期内膜所見良好患者では不良患者に比べ, IVF-ET妊娠率が有意に高いこと, 妊娠成立後の早期流産率が有意に高いこと, を明確にした。そこで内膜所見をいかに改善するかについて, 月経時内膜剥離不全に対する内膜吸引, hCG投与などを検討している。また, この内視鏡的所見と組織所見との関係を検索中である。

b. 超音波断層的研究

 経腟超音波断層法により, 排卵直前の超音波像としてリーフ状内膜, 不規則高輝度内膜, 高輝度内膜の3パターンを認め, IVF-ETにおいてはリーフ状内膜を呈した群から有意に高い妊娠率が得られている。これら所見の組織学的所見は, リーフ状内膜では小腺管が密で間質細胞が粗に分布しているのに対し, 高輝度内膜では大小不同の腺管と密な間質細胞が分布しており, 内膜の腺細胞と間質細胞の増殖・分化の違いが受精卵着床の場に影響を与えていることが推測される。現在, これら3パターンの背景因子とその改善方法について検討中である。

 

2. 体外受精・胚移植法IVF-ETの検討 (宮城博子, 神山茂, 當間敬, 金澤浩二)

 IVF-ETを1988年から導入し, 現在まで約1, 859周期中237周期に妊娠が成立し, 平成9年度は治療周期当たり19.4%, ET当り23.0%の妊娠率を得ている。当科での対象患者の年齢は平均37才であり, 全国一高いにもかかわらず, その妊娠率は全国平均と同等である。これは子宮内膜の受精卵着床受容能の研究から, 高年齢患者では受容能異常を呈する例が多いことを念頭にいれて対処してきた結果と考えられる。とくに月経時剥奪不全内膜を独自に開発した内膜吸引カテーテルやKaufman療法にて除去したことにより, 35才以上の妊娠例が増加した。しかしながら, 41才以上の対象を如何に克服するかはきわめて難題であり, 一層の研究が必要となっている。

 

3. 多発排卵抑制防止への対策に関する研究 (宮城博子, 神山茂, 當間敬, 金澤浩二)

 排卵誘発法の進歩は不妊症治療に画期的な進歩をもたらしたが, 一方では, 多発排卵による多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群 (OHSS) を自然周期に比べて高率に引き起こす原因ともなっている。今回, 排卵誘発治療における多発排卵を回避する方法として, 多数の発育卵胞に対し, 卵胞の選択的穿刺吸引により卵胞数を減少させることが多胎妊娠およびOHSSの発生の予防に有用か否かについて検討している。現在までに, 卵胞穿刺・吸引後の妊娠成立は10例中4例, 12周期中4周期に認められた。多胎妊娠は4例中1例に発生し, 双胎妊娠であった。OHSSは12周期中6周期に発生したが, いずれの症例もmild OHSSであった。多発排卵を回避するための卵胞穿刺・吸引法は, 妊娠率を低下せしめることなく, 品胎以上の多胎妊娠およびOHSSの発生の予防に有用であることが示され, さらに症例を追加中である。

 

4. IVF-ETの妊娠率と卵管病変に関する研究 (神山茂, 當間敬, 照屋陽子, 宮城博子, 金澤浩二)

 IVF-ETにおいて卵管水腫などの炎症性病変があると, その妊娠率, 流産率に影響をおよぼすことが示唆されている。当科の症例について検討した結果, そのような症例では妊娠率はほぼ変わらないが, 流産率の高いことが判明した。そこで, 病的卵管の存在が, どのような機序で妊卵の着床と初期発育の場, すなわち, 子宮内膜のコンディショニングに関与するかを解析することが今後の課題となった。感染にともなう種々のサイトカインの動態などを解析するとともに, IVF-ETを複数回施行しているが妊娠に至らない卵管水腫例に対して, 腹腔鏡下での卵管開口術を行い, その有用性を検討している。

 

5. 凍結保存ヒト精液の解凍後の精子運動性の検討 (神山茂, 當間敬, 宮城博子, 金澤浩二)

 男性不妊は不妊原因の約50%を占め, 顕微授精の適応例が増加している。なかでも精巣上体精子の直接採取例は回を追うごとに回収が不良となるため, 精子の凍結保存が必要となる。精子の凍結融解に伴う運動性の低下を少なくするには, 精子蘇生率に最も大きく影響する凍結速度の条件設定が重要である。種々の液体窒素液面からの高さを設定し, 採精時の精液所見の違いによる比較検討を行っている。

 

6. 乳癌術後タモキシフェン内服患者の生殖器異常に関する研究 (當間敬, 照屋陽子, 神山茂, 宮城博子, 金澤浩二)

 タモキシフェンは抗エストロゲン作用のみでなく, 生殖器に対して逆にエストロゲン作用を示しうることが指摘されている。従って, 乳癌術後の再発予防としてタモキシフェンを内服している患者には, 卵巣, 子宮をはじめとしていろいろな異常所見が観察されている。当科でもこのような紹介患者が多くなってきており, その実態を明らかにすること, 必要な診断的治療的アポローチを行うこと, を目的として検討を進めている。

 

7. 思春期, 中高年期における内分泌学的検討 (宮城博子, 宮良美代子, 照屋陽子, 神山茂, 金澤浩二)

思春期早発症に対してGnRHaを用いた治療を施行している。従来からの治療薬であるProgesterone誘導体では骨年齢の抑制効果が不十分であるためである。現在, 8人中6人が治療を終了し, 終了後1年以内に月経の発来をみており, 最終身長は1人を除き150cm以上であった。本薬剤による長期的治療成績は, 今後の同疾患に対する適正な治療法の確立に重要な情報となるものである。

中高年期における骨そしょう症に対して天然型Estrogenを投与し, その予防効果を検討している。高齢化社会における予防医学の研究としてホルモン補充療法の有用性が注目されている。中高年婦人を対象とし, その不定愁訴を集中的に研究する目的の専門外来を開設し, 更年期不定愁訴, 骨そしょう症, 心血管系障害などに対応している。

 

V 周産期医学

 

1. 胎児仮死の診断における臍帯動脈血流Doppler 法の臨床応用 (正本仁, 中山美奈子, 佐久本薫, 金澤浩二)

 重症糖尿病, 高血圧症, 慢性腎炎, 抗リン脂質抗体症候群などの内科疾患を合併している妊婦や重症妊娠中毒症を来した妊婦では, 胎児仮死の診断が極めて重要である。これまでの胎盤機能検査 (血中hPL測定, 尿中E3測定), None Stress Testなどに加えて, 臍帯動脈血流Doppler法を施行した。臍帯動脈拡張期血流の途絶または逆流の出現は, 早期の胎児仮死の徴候であり, 娩出した胎盤の病理学的所見として胎盤梗塞などを認め, 胎盤機能の低下を示す所見と一致した。さらに症例を重ねて, 胎児娩出の時期を的確に判断する上の情報としての有用性について検討中である。

 

2. 既往帝王切開創の超音波断層法による評価 (コレシ・ビルキス, 中山美奈子, 島袋美奈子, 正本仁, 金澤浩二)

 わが国においても帝王切開術の頻度は増加しているが, その適応をみると, 約3分の1が前回帝王切開であり, 反復帝切例の増加が帝切率の増加に大きくかかわっている。しかし, 帝王切開術は必ずしも安全な手術ではなく, 手術時の麻酔事故, 出血や感染を増加させ, また, 産褥期の母児の接触にも負の影響をおよぼすことになる。帝王切開術を減少させる目的として, VBAC (vaginal birth after cesarean section) が試みられている。VBACを試みるに際して, 腟式超音波法により子宮下部の前回帝王切開創を観察し, その治癒状態を評価することにより子宮破裂のリスク症例を選別できないかどうか検討した。前回帝切例に対し妊娠16週から36週までの子宮下部を腟式超音波法により評価した。43例の前回帝切例のうち, 26例 (60.5%) にVBACを試み, 残り17例 (39.5%) は選択的帝王切開術を行った。VBACの26例中15例 (34.9%) が経腟分娩できた。超音波による子宮下部の厚みが2mm以上の場合57.7%が経腟分娩することができた。帝王切開例28例 (選択的17例+VBAC後11例) の術中所見と比較すると, 子宮下部の厚みが2mm未満の9例全例が子宮内容を透見できるほど筋層が菲薄化しているか, 漿膜のみを残して筋層が欠損しているかのどちらかの状態であった。子宮下部の超音波による観察は, 既往帝王切開妊婦に対してVBACを試みるか否かを決定する上で有用な情報となることが明らかとなった。

 

3. 妊娠早期の頚管形態的評価と切迫早産予知に関する研究 (大島教子, コレシ・ビルキス, 中山美奈子, 正本仁, 佐久本薫, 金澤浩二)

 妊娠16週〜24週の早期に経腟超音波検査を行い, 内子宮口の形態的評価を行うことで, その後に切迫早産をおこすリスクのある妊婦をスクリーニングすることが可能かを前方視的に検討した。経腟超音波検査による内子宮口周囲, 頚管の形態を評価し, 以下の3群に分類した。内子宮口を形成する筋層が, 子宮腔に向かって隆起するもの; convex type, 平坦なもの; flat type, 陥凹するもの; concave typeに分類した。対象は無症状の妊婦90例で, 妊娠16週〜24週に経腟超音波検査を行った。初回検査時の所見は, convex type: 49例, flat type: 28例, concave type: 13例であった。その後妊娠経過中に10〜15分毎の規則的な収縮を認めるようになった症例は, それぞれ21/49 (42.9%), 15/28 (53.6%), 10/13 (76.9%)であり, convex typeとconcave typeの間に有為差を認めた。また, 頚管開大を認めた症例は, 3/49 (6.1%), 8/28 (28.6%), 12/13 (92..3%)で各群間に有為差を認めた。妊娠早期の経腟超音波検査による内子宮口・頚管の形態評価を行い, 早産のリスク症例を抽出し, その後の厳重な妊婦管理と積極的な治療を行うことで早産予防が可能であると考える。

 

4. 多胎妊娠に関する臨床的解析 (中山美奈子, 島袋美奈子, 正本仁, 佐久本薫, 金澤浩二)

 多胎妊娠は単胎妊娠に比して母児双方に合併症をおこすことが多く, ハイリスク妊娠として厳重な管理が必要である。また, 排卵誘発剤の使用や体外受精・胚移植などの生殖補助医療の進歩により多胎妊娠の頻度が年々増加している。1991年から5年間に当科で分娩した多胎妊娠症例は53例であった。この間の分娩総数は1,222例であり, 多胎妊娠率は4.3%であった。双胎妊娠は49例 (24.9分娩に1例), 品胎妊娠は4例 (305分娩に1例) であった。53例中20例 (37%)が他院からの紹介例であった。多胎の発生要因としては, 自然妊娠21例(39.6%), 体外受精・胚移植23例 (43.4%), hMG-hCG療法4例 (7.6%), クロミッド療法5例 (9.4%)であり, 体外受精・胚移植の占める割合が高率であった。母体合併症としては, 治療を必要とした切迫早産が39例 (73.6%), 前期破水12例 (22.6%), 妊娠中毒症11例 (20.7%)であった。37週未満の早産例は25例 (47.1%) と高率であった。胎児数110例の胎児合併症としては, 低出生体重児40例 (75.4%), 子宮内胎児死亡3例 (2.7%), 児の奇形は4例 (3.6%) であった。児出生体重は, 双胎で2,160±666g, 品胎2,085±236gであった。分娩様式は経腟分娩16例 (30.2%), 帝王切開術37例 (69.8%)で, 単胎妊娠に比して高い帝切率であった。当科では早産の予防として原則として, 安静入院を行っている。また, 予防的な頚管縫縮術は行っていない。経腟超音波による頚管長の短縮の有無, 内子宮口の形態変化を観察し, 縫縮術の適応を決めている。多胎に関連した臨床的問題として, 早産の予防ばかりでなく, 妊娠初期の超音波検査による膜性診断, discordant twin, 双胎間輸血症候群, 双胎の一児死亡例の問題など多くの問題があり, 適切な多胎妊娠例の管理についてさらに検討中である。

 

5. 高度腎機能障害例の妊娠継続可否についての検討 (佐久本薫, 中山美奈子, 正本仁, 島袋美奈子, 金澤浩二)

 慢性腎炎やネフローゼ症候群では, Ccrが50ml/min以下, 尿蛋白が2g/dl以上の高度腎機能障害例は原則として妊娠は許可されない。しかし, 挙児希望が極めて強い症例があり, やむを得ず妊娠継続する場合がある。1989年から1997年にあつかった高度腎機能障害例は8例であった。内訳は, 慢性腎炎2例 (Ccr: 24ml/ml, Ccr: 31ml/ml), 糖尿病腎症2例 (Ccr: 25ml/ml, Ccr: 34ml/ml), SLEを含むネフローゼ症候群3例 (蛋白尿: 7.6g/day, 3.3g/day, 3.0g/day)透析患者1例(BUN: 70mg/dl, Cr: 7.0mg/dl) であった。慢性腎炎の2例はそれぞれ妊娠30週, 35週に腎機能の悪化を適応に帝切を施行した。糖尿病腎症の2例は胎児適応で妊娠28週, 29週に帝切を施行した。ネフローゼ症候群は胎児適応 (30週), 高血圧による母体適応 (34週), 分娩進行停止 (39週) で帝切。透析例は選択的に37週で帝切を行った。8例とも健児を得た。慢性腎炎2例は分娩後, 腎機能は妊娠前に復し, 糖尿病2例は腎機能の悪化を認めたがその進行が速まったという所見は認めなかった。うち1例は, 分娩7カ月後に人工透析に移行した。挙児を強く希望する高度腎機能障害例に対し, 従来の妊娠許可基準に準じて画一的に妊娠継続を不許可にするのでなく, 症例によっては厳重な妊婦管理と胎児評価を行うことにより, 生児を獲得でき, かつ腎疾患の自然経過を著しく障害するものでないことが示された。症例を重ね, さらに検討を行っている。

 

 

B. 研究業績

 

1. 原著

G97001: 佐久本薫, 東政弘, 金澤浩二 (1996) 妊娠と子宮頚癌 -早期の浸潤癌(Ia期, b期)に対する計画的待機治療. 周産期医学 26 1996-12.

 

G97002: 神山茂, 宮城博子, 當間敬, 宮良美代子, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 卵管切除術が卵巣機能に及ぼす影響 -IVF-ET時の卵巣の反応性-. 日受精着床会誌 14 51-53.

 

G97003: 東政弘, 諸見里秀彦, 金澤浩二 (1997) 妊孕性を考慮した卵巣悪性胚細胞腫瘍の化学療法. 今月の臨床 51 724-729.

 

G97004: 金澤浩二 (1997) 卵巣悪性腫瘍. 日産婦会誌 49 N193-N196.

 

G97005: 長井裕, 諸見里秀彦, 佐久本薫, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 子宮頚癌骨転移の臨床. 産婦の実際 46 1419-1424.

 

G97006: 諸見里秀彦, 長井裕, 渡嘉敷みどり, 島袋美奈子, 伊波忠, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 卵巣癌に対する多剤併用化学療法の適用と限界 -卵巣癌に対する化学療法の限界についての検討-. 日産婦九連会誌 104-109.

 

G97007: 宮城博子, 神山茂, 當間敬, 島袋史, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 排卵誘発法における多排卵の防止策 -卵胞穿刺・吸引による多発排卵の防止-. 日産婦九連会誌 143-146.

 

G97008: Qureshi B, Inafuku K, Higashi M, Kanazawa K (1997) Risk assessment of threatened preterm labor and prediction of premature cervical dilatation from the ultrasonographically determined morphological shape of the cervix. Ryukyu Med J 17 31-36.

 

G97009: Qureshi B, Inafuku K, Oshima K, Masamoto H, Kanazawa K (1997) Ultrasonographic evaluation of lower uterine segment to predict the integrity and quality of cesarean scar during pregnancy: a prospective study. Tohoku J Exp Med 183 55-65.

 

G97010: 中山美奈子, 正本仁, 島袋史, 佐久本薫, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 多胎妊娠に関する臨床的解析. 日産婦沖縄誌 16-20.

 

G97011: 當間敬, 神山茂, 長井裕, 照屋陽子, 宮城博子, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 腹腔鏡下卵管開口術後に自然妊娠の成立した両側卵管溜水症の1例. 日産婦沖縄誌 30-32.

 

G97012: 神山茂, 長井裕, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 当科における腹腔鏡下卵巣嚢腫核出術の検討. 日産婦沖縄誌 36-39.

 

G97013: 伊波忠, 沈泓, 東政弘, 金澤浩二, 稲福薫 (1997) 子宮鏡検査による微小子宮体癌の診断に関する検討. 日産婦沖縄誌 44-47.

 

G97014: 長井裕, 渡嘉敷みどり, 諸見里秀彦, 島袋美奈子, 伊波忠, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 子宮頚部上皮内癌の保存手術前後におけるHPV検出の意義. 日産婦沖縄誌 48-51.

 

G97015: 東政弘, 諸見里秀彦, 渡嘉敷みどり, 伊波忠, 佐久本薫, 金澤浩二 (1997) 当科における子宮頚癌の治療成績 -20年間の集計-. 日産婦沖縄誌 52-59.

 

2. 総説

S97001: 金澤浩二, 諸見里秀彦 (1996) Etoposide -婦人科癌-. 癌と化学療法 23 1925-1928.

 

S97002: 金澤浩二, 神山茂 (1997) 性器ヘルペスの診断と治療. 産婦治療 74 443-446.

 

S97003: 金澤浩二, 東政弘 (1997) 症例から見たチエックポイント -外陰部の白色病変のチエックポイント-. 産婦の実際 46 619-622.

 

S97004: 金澤浩二 (1997) 婦人科悪性腫瘍と化学療法 -卵巣悪性胚細胞腫瘍の妊孕能温存治療-. 先端医療 4 25-27.

 

S97005: 金澤浩二 (1997) 卵巣悪性腫瘍に対する妊孕能温存治療の適応と管理. 日産婦会誌 49 N239-N242.

 

3. 著書

T97001: 金澤浩二 (1997) 絨毛性疾患. 矢嶋聰, 中野仁雄, 武谷雄二, NEW産婦人科学, 南光堂, 東京, 573-583.

 

T97002: 金澤浩二 (1997) 絨毛癌. 野澤志朗, 大川智彦, 婦人科がん治療学, 金原出版, 東京, 411-416.

 

4. 報告

H97001: 正本仁, 佐久本薫, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 黄体機能不全が原因の習慣流産に対するhCG療法の検討. 日産婦九連会誌 20.

 

H97002: 正本仁, 宮城博子, 東政弘, 金澤浩二 (1997) IVF-ET例における妊娠前子宮内膜血管所見と流産との関連性についての検討. 日産婦九連会誌 69.

 

H97003: 長井裕, 渡嘉敷みどり, 伊波忠, 諸見里秀彦, 前濱俊之, 東政弘, 金澤浩二, 安里剛 (1997) 子宮頚部異形成,上皮内癌に対する治療的円錐切除術前後における HPV DNA検出の意義. 日産婦九連会誌 74.

 

H97004: 神山和也, 伊波忠, 諸見里秀彦, 渡嘉敷みどり, 島袋美奈子, 長井裕, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 術前放射線療法が有効であった進行外陰癌2症例について. 日産婦九連会誌 80.

 

H97005: 島袋美奈子, 長井裕, 渡嘉敷みどり, 伊波忠, 諸見里秀彦, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 婦人科領域肉腫に対する化学療法の検討. 日癌治療会誌 32 129.

 

H97006: 伊波忠, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 若年性子宮体癌に対する高用量MAP療法 -適応と治療効果判定における子宮鏡検査の有用性-. 日癌治療会誌 32 130.

 

H97007: 渡嘉敷みどり, 長井裕, 島袋美奈子, 伊波忠, 諸見里秀彦, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 子宮体癌症例におけるリンパ節転移例の検討. 日癌治療会誌 32 140.

 

H97008: 長井裕, 渡嘉敷みどり, 伊波忠, 諸見里秀彦, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 進行・再発子宮頚癌に対する放射線化学療法同時併用療法の試み. 日癌治療会誌 32 143.

 

H97009: 金澤浩二 (1997) 卵巣悪性腫瘍. 日産婦会誌 49 supple 69.

 

H97010: 諸見里秀彦, 長井裕, 渡嘉敷みどり, 伊波忠, 島袋美奈子, 佐久本薫, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 進行子宮頚癌に対するNeoadjuvant chemotherapyの検討. 日産婦会誌 49 supple 174.

H97011: 中山美奈子, 伊波忠, 上原裕子, 長井裕, 島袋美奈子, 渡嘉敷みどり, 諸見里秀彦, 佐久本薫, 東政弘, 他1名 (1997) 子宮頚癌・体癌術後深部静脈血栓症の臨床診断に関する検討. 日産婦会誌 49 supple 176.

 

H97012: 渡嘉敷みどり, 長井裕, 島袋美奈子, 伊波忠, 諸見里秀彦, 佐久本薫, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 卵巣悪性腫瘍の妊孕能温存治療についての検討. 日産婦会誌 49 supple 190.

 

H97013: 當間敬, 正本仁, 佐久本薫, 東政弘, 金澤浩二, 北條宏, 稲福薫 (1997) 原因不明の切迫早産に対するアスピリン療法と凝固線溶系マ−カ−の推移. 日産婦会誌 49 supple 325.

 

H97014: 長井裕, 前濱俊之, 東政弘, 金澤浩二, 安里剛 (1997) 子宮頚癌の転移診断におけるHPV DNA検出の意義. 日産婦会誌 49 supple 368.

 

H97015: 伊波忠, 正本仁, 東政弘, 金澤浩二, 稲福薫 (1997) 高分化型子宮内膜癌の子宮鏡的形態および腫瘍サイズとその進展様式との関連性について. 日産婦会誌 49 supple 454.

 

H97016: 沈泓, 伊波忠, 渡嘉敷みどり, 諸見里秀彦, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 子宮鏡およびMRIによる子宮体癌頚部浸潤の術前診断に関する検討. 日産婦会誌 49 supple 454.

 

H97017: 宮良美代子, 宮城博子, 神山茂, 正本仁, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 不妊症婦人における子宮内膜の評価 -排卵前期内膜超音波像,黄体期中期子宮鏡所見および内膜日付診の関連-. 日産婦会誌 49 s 472.

 

H97018: 神山茂, 長井裕, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 広間膜内に発育した巨大傍卵巣嚢胞に対する腹腔鏡下摘出術の経験. 沖縄医会誌 36 46.

 

H97019: 當間敬, 島袋史, 神山茂, 宮城博子, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 当科におけるIVF-ET後妊娠例の転帰についての検討. 沖縄医会誌 36 47.

 

H97020: 渡嘉敷みどり, 長井裕, 島袋美奈子, 神山和也, 伊波忠, 諸見里秀彦, 佐久本薫, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 表層上皮性間質性卵巣悪性腫瘍の妊孕能温存治療についての検討. 沖縄医会誌 36 48.

 

H97021: 伊波忠, 宮城博子, 神山茂, 宮良美代子, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 不妊症患者における子宮体癌発症例について. 沖縄医会誌 36 48.

 

H97022: 島袋美奈子, 諸見里秀彦, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 当科で経験した卵管癌症例の検討. 沖縄医会誌 36 49.

 

H97023: 諸見里秀彦, 島袋美奈子, 長井裕, 渡嘉敷みどり, 神山和也, 伊波忠, 佐久本薫, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 進行子宮頚癌に対するNeoadjuvant chemotherapyの検討 -今後の展開について-. 沖縄医会誌 36 49.

 

H97024: 宮城博子, 神山茂, 東政弘, 金澤浩二 (1997) 体外受精における多胎妊娠率の検討. 第15回日受精着床会 抄録集 110.

 

H97025: 金澤浩二, 正本仁 (1997) 妊産褥婦へのエモーショナル・サポートと母性形成. 厚生省心身障害研究平成8年度研究報告書 51-53.

 

H97026: Masamoto H, Sakumoto K, Higashi M, Kanazawa K (1997) Spontaneous disappearance of maternal antiphospholipid antibodies in successful. Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica 76 Supple 167 2 73.

 

H97027: Nagai Y, Maehama T, Higashi M, Kanazawa K (1997) Clinical significance of human papilloma-virus detection from metastasis-suspected tissues in cervical cancer. Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica 76 Supple 167 3 64.

 

H97028: Maehama T, Kanazawa K, Hausen H, Rosl F (1997) Selective suppression of HPV 16/18 transcription by 2-deoxyglucose. Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica 76 Supple 167 3 74.

 

H97029: Kamiyama S, Toma T, Masamoto H, Miyagi H, Higashi M, Kanazawa K (1997) Selective salpingography in treatment of infertil women patent fallopian tubes. Acta Obstetricia et Gynecologica Scandinavica 76 Supple 167 5 69.