薬理学講座

 

A. 研究課題の概要

 

1. KATPchannel阻害薬Glyburideによる低灌流糖尿病rat心臓のステフネス増加の促進; LevcromakalimおよびInsulinによるその防止 (樋口マキヱ, 宮城香奈子, 嘉陽進, 坂梨又郎)

 目的: 糖尿病心臓, 特にSulphonylurea誘導体処置心臓, のNorepinephrine (NE) 付加低流量灌流時の心機能不全におけるKATPchannelの役割を解明する。方法: Streptozotocin糖尿病ratの摘出駆動心臓の左心室にballoonを挿入し, Krebs-Henseleit液で灌流した。結果: Dye microspheres法で測定した通常灌流下の左心室自由壁の局所心筋灌流量は, 外層より内層心筋の方が多く, NE付加低灌流60分後には, 内層心筋の方が低値となった。Sulphonylurea系抗糖尿病薬で特異的KATPchannel阻害薬のGlyburide存在下では, NE付加低灌流時の左心室拡張終期圧と張力の増加はより早期に開始し, その程度も大きくなった。NE付加低灌流60分後のATP, クレアチンリン酸 (CP), energy charge, phosphorylation potentialやCP/無機リン酸 (Pi) 比の減少およびAMP, Piや乳酸の増加の程度はより顕著になった, 特に左心室内層心筋で。この様にex vivo Glyburideは糖尿病心臓におけるNE付加低灌流時の左心室ステフネス増加および心筋エネルギー代謝異常を亢進させた。これらの変化は選択的Kchannel開口薬LevcromakalimによりGlyburide不在NE付加低灌流時のレベルへ減少した。InsulinはGlyburideによるNE付加低灌流障害の早期の悪化を阻止しなかったが, 低灌流20分以後の悪化を改善した。結論: 糖尿病心筋のKATPchannelはNE付加低灌流時に開口し, 左心室ステフネス増加の開始を遅くする。Glyburideは虚血糖尿病心臓に有害に作用する。即ち, NE付加低灌流下の心筋KATPchannel阻害は左心室ステフネスの増加および心筋エネルギー代謝異常を亢進させる。虚血糖尿病心臓におけるGlyburideの有害な作用はLevcromakalimおよびInsulinにより防止される。

 

2. 実験的うっ血性心不全の血行動態におよぼす各種有機硝酸薬反復投与の影響 (野口克彦, 松崎俊博, 小山智之, 坂梨又郎)

 Nitroglycerin (NTG) はその反復投与によって耐性を発現するが, その機序について, とくに生体位において十分に調べられていない。また, 耐性発現の有無は, 有機硝酸薬ごとに異なるとされている。そこで, 3種の有機硝酸薬NTG, nicorandil (NCR), およびnitroprusside (SNP) の反復投与による血行動態に対する効果を, イヌうっ血性心不全モデルを用いて比較検討した。心不全作成後, 大動脈血流量 (AoF), 心収縮性の著明な減少と, 右房圧 (RAP), 左室拡張末期圧 (LVEDP) の上昇がみられた。これらに対して, 3薬物はいずれもLVEDPを同程度に低下させ, 大動脈圧 (AoP)・RAPの低下とAoFの増加を引き起こした。NTGの反復投与でAoP・LVEDP・RAPの低下作用に有意の減弱がみられたが, SNPでは一回目投与時とほぼ同様な血行動態の変化を示した。一方, NCRの反復投与ではLVEDPの低下にのみ有意の減弱が認められた。以上より, 本実験モデルにおいて, 有機硝酸薬の循環作用の一部には耐性発現が認められ, その程度は薬物ごとに異なることが示唆された。

 

3. Nitroglycerinによる血管弛緩効果に関する研究 (松崎俊博, 仲宗根淳子, 小山智之, 安仁屋洋子, 坂梨又郎)

 Nitroglycerinをはじめとする有機硝酸剤の血管弛緩作用に関与すると考えられている, NO産生量, cyclicGMP量およびglutathione S-transferase (GST) 活性を摘出ブタ冠動脈において測定した。対照群と比較して, GST阻害薬を作用させた血管ではGST活性は約70〜80%に低下した。しかし, nitroglycerinを作用させた血管のNO産生はGST阻害薬では抑制されなかった。また, cyclic GMP量にも変化がなかった。これらのことよりGST活性はほとんどNO産生および血管弛緩に関与していないことが推察された。

 

 

B. 研究業績

 

1. 原著

G97001: Higuchi M, Miyagi K, Kayo S, Sakanashi M (1997) Acceleration of stiffness in underperfused diabetic rat hearts by glyburide, a KATP channel blocker, and its prevention by levcromakalim and insulin. Cardiovasc Res 35 303-314.

 

G97002: Hobara N, Kameya H, Hokama N, Ohshiro S, Sakanashi M (1997) Rapid and simple determination of fleroxacin in rat plasma using a solid-phase extraction column. J Chromatography B 703 279-283.

 

3. 著書

T97001: 坂梨又郎 (1997) V.ヒトと薬の関係 1. 薬のヒトへの作用 2. ヒトの薬への作用 3. 濃度-反応関係の解析. 植松俊彦・岩本喜久生編,「臨床薬理学テキスト」, (南江堂), 東京, 27-33.

 

T97002: 坂梨又郎 (1997) [.臨床薬理学に基づく治療薬の使い方 5. 強心薬の使い方. 植松俊彦・岩本喜久生編, 「臨床薬理学テキスト」, (南江堂), 東京, 159-167.

 

T97003: 樋口マキヱ, 坂梨又郎 (1997) 糖尿病心臓における摘出低流量灌流時の左心室機能不全と心筋局所流量分布の関係; KATPチャネル阻害薬の効果, 心筋代謝研究会編, 「心筋の構造と代謝-1996」, (六法出版社), 東京, 19 411-420.

 

4. 報告

H97001: 樋口マキヱ, 宮城香奈子, 仲宗根淳子, 坂梨又郎 (1997) 摘出低灌流糖尿病および非糖尿病ラット心臓における局所心筋灌流量と心機能不全の関係; KATPチャンネル作用薬の効果. Jpn J Pharmacol 73 Suppl I 240.

 

H97002: 野口克彦, 松崎俊博, 小山智之, 坂梨又郎 (1997) 実験的うっ血性心不全の血行動態におよぼすcilnidipine とnicardipine の作用. Jpn J Pharmacol 73 Suppl I 240.

 

H97003: Higuchi M, Miyagi K, Nakasone J, Sakanashi M (1997) Regional myocardial flow distribution in isolated underperfused rat hearts with multiple dye microspheres. J Mol Cell Cardiol 29 A299.

 

H97004: 糸嶺達, 松崎俊博, 野口克彦, 樋口マキヱ, 小山智之, Ameho CK, 仲宗根淳子, 宮城香奈子, 大城進, 芳原準男, 坂梨又郎 (1997) Nipradilol のアドレナリン性β受容体遮断作用におけるニトロキシ基の意義. 日薬理誌 111 79.