ウイルス学講座

 

A. 研究課題の概要

 

1. 日本脳炎/デングキメラウイルスの生物学的性状の解析 (只野, 加根村, 馬, 福永)

 これまでに, 本研究では病原性, 媒介蚊の種類, 宿主域などの生物学的性質が異なった日本脳炎ウイルス (JE) とデングウイルス (DEN) の遺伝子cDNAの組み換えによりキメラを作成し, キメラのマウス脳神経毒性と培養細胞における増殖脳に関して若干の検討を行った。その結果, キメラの脳神経毒性はJEと比較して著しく減少していた。また, 蚊由来C6/36細胞中では増殖するが, 哺乳動物由来Vero細胞中では殆ど増殖しないことも観察した。今回はキメラの培養細胞における増殖等に関してさらに詳しい検討を行い, 次の結果を得た。

1) キメラのC6/36細胞とVero細胞における増殖の違いが宿主細胞によるものなのか, 培養温度によるものなのかは興味深い。まず, 培養温度を下げて検討したところ, 32℃ではVero細胞中でも増殖することがわかった。次に, ウイルスの温度安定性を調べた。37℃におけるインキュベーションでキメラは親のJEとDENに比べて極めて不安定であることが明らかになった。これらのことから, 我々が作成したキメラは温度感受性変異株であると考えられた。Vero細胞における連続継代による高温 (37℃) への馴化を行い, ウイルスの温度感受性に関する研究に発展させる予定である。

2) マウス脳への連続継代で脳神経毒性を高めたキメラと毒性の低いキメラの遺伝子塩基配列を比較し, 脳神経毒性に関与するウイルス側の因子を明らかにする試みを行っている。

 

2. JE/DENキメラウイルス遺伝子の解析 (馬, 山城, 加根村, 只野, 福永)

 JEとDENのキメラ (上述) はC6/36細胞にRNAをトランスフェクトしてからウイルスが産生されるまで約五週間の培養期間を要した。このことから, ウイルス産生を許容する何らかの変異が起きたと考えられる。そこで, 得られたキメラの遺伝子について塩基配列を検討した。ウイルス遺伝子の5'末端から組み換えた外殻蛋白領域の終わりまでの配列の中で, JE由来prM蛋白とE蛋白領域に一残基ずつアミノ酸置換が認められた。さらに, DEN由来5'側非翻訳領域にも一塩基の置換が認められた。これらの変異が感染性ウイルス産生に関与しているか否かを明らかにするために, それぞれの変異を別個に導入したcDNAのRNA転写産物を細胞へのトランスフェクトする予定である。

 

3. 日本脳炎ウイルスラオス株の抗原差異に関する研究 (斉藤, 加根村, 馬, 福永)

 ラオス国で分離された日本脳炎ウイルスは北部タイとカンボジアに分布している遺伝子型1に属しているが, ラオス国での日本脳炎流行状況, 血清学的反応が北部タイのものと異なっている。ラオス人日本脳炎患者血清はラオス株とは反応せず, ラオス健常人血清は北京株に強く反応するグループとラオス株に強く反応するグループに分けられることが判明した。これらの反応性の違いを血清学的, 遺伝子の解析により検討している。これらの研究は将来ラオスでのワクチン導入にとって必要不可欠なものである。

 

 

B. 研究業績

 

1. 原著

G97001: 宮城航一, 六川二郎, 銘苅晋, 福永利彦, 牧野芳大, 新垣栄, 只野昌之, 馬紹平, 赤城剛, 上田房雄 (1997) 悪性グリオーマに対する遺伝子治療の基礎的研究 -Bystander effectにおけるギャップ結合の役割-. 脳神外ジャーナル 6 22-30.

 

4. 報告

H97001: 福永利彦 (1997) 沖縄で分離された日本脳炎ウイルスの分子疫学. 乳酸菌研究会に関する報告書 平成8年度 643-649.

 

H97002: Makino Y, Tadano M, Matsuo S, Hasebe F, Fukunaga T, Igarashi A, Lai CJ (1997) Characterization of a chimera constructed between Japanese encephalitis virus and dengue type 4 virus. 4th International Meeting on Hepatitis C virus and Related viruses Abst 80.

 

H97003: 牧野芳大, 只野昌之, 松尾幸子, 長谷部太, 福永利彦, 五十嵐章, Lai CJ (1997) デング・日本脳炎キメラウイルスの作成とその性状の検討. 第30回日本脳炎ウイルス生態学研究会抄録 26.

 

H97004: 牧野芳大, 只野昌之, 松尾幸子, 馬紹平, 長谷部太, 五十嵐章, 福永利彦 (1997) DEN4/JEVキメラウイルスの作成とその性状の検討. 日本ウイルス学会第45回総会抄録 212.

 

H97005: 牧野芳大, 只野昌之, 松尾幸子, 馬紹平, 長谷部太, 五十嵐章, 福永利彦, Lai CJ (1997) デング・日本脳炎キメラウイルス. 第4回トガ・フラビ・ペスチウイルス研究会抄録 5.

 

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