病理学第一講座

 

A. 研究課題の概要

 

1. 癌細胞のエネルギー代謝に対する米糠由来抗腫瘍性分画RBFの作用の研究 (伊藤悦男, 森岡孝満)

1) 米糠から抽出した抗腫瘍性分画で脂肪酸とポリペプタイドを主体とするRBFは, 癌細胞のエネルギー代謝に際して発生する熱に影響を与えることが微小熱量計による測定で分かった。このような癌細胞のエネルギー代謝に影響を与える物質を探した結果, 脱共役剤のDNPが最も類似した熱型を示す事が分かった。増殖の早い癌細胞では急速で旺盛な解糖と呼吸抑制が特徴的に見られるが, RBFとDNPの熱型は解糖速度を急激に促進しているという点で類似しており, 少なくともRBFは癌細胞のエネルギー代謝に作用して抗腫瘍性を示す事が推定された。

2) 細胞内ATP量はエネルギー代謝の状態を示す。そこでRBFを加えた場合の癌細胞内のATPを測定し, エネルギー代謝の変化が熱量計で測定された熱型と対応するかどうか検索した。この結果, 発熱反応とATP量の変動が完全に並行関係を示す事が証明された。またRBF添加によるATP量の変動は, 脱共役剤DNPを添加した場合と同様な変動を示していた。即ち, いずれも短時間で急速なATP産生の亢進と, それに引き続くATP産生抑制を示した。

 

2. Ehrlich腹水癌細胞を用いた米糠由来抗腫瘍画分RBFの抗腫瘍作用機序の解明, 特にアポトーシス誘発作用についての実験 (森岡孝満, 范浩, 大城吉秀)

1) Ehrlich腹水癌細胞を皮下に移植して固形癌を作成し, これに対してRBFを投与すると, 腫瘤の発育抑制を示し, 組織学的には腫瘍細胞の壊死と多数のアポトーシス, 腫瘤周辺での組織球の出現, 炎症様肉芽反応が見られた。アポトーシスの出現率はRBFの投与量と量的相関を示していた。これらからRBFは癌細胞の増殖阻止, 殺細胞性を示し, この機序にアポトーシスの誘発が大きく関連していると考えられた。

2) またin vitroでも, 培地に各種濃度のRBFを添加することにより培養細胞のアポトーシス数が濃度に比例して増加する事実が分かった。これからもRBFの抗腫瘍性機序とアポトーシスの誘発作用との関連が明らかとなった。現在は, 細胞周期を同調させた場合のアポトーシスの誘発状況を検索をしている。

 

3. RBFのヒト子宮内膜腺癌由来細胞Sawano (RCB1152) に対するアポトーシス誘発作用 (范浩, 森岡孝満)

 培養系として確立されたヒト子宮癌由来の腺癌細胞SAWANO cellを用いてRBFによるアポトーシスの誘発実験を行っている。この細胞に対しても濃度に応じたアポトーシスの増加が見られている。

4. 沖縄本島南部の泥岩 (ジャーガル, クチャ) の粉末による塵肺症の研究 (伊藤悦男, 嘉陽清美, 宮城恵利子)

沖縄本島南部の土壌はジャーガル, 島尻マージと呼ばれる特殊土壌からなっている。これらに共通する成分は, その半量近くを占めるシルト岩である。この泥岩とよばれるジャーガルは乾燥すると岩状を呈し微細な粒子が粘土で固まったもので, 脆く容易に粉末となる。この粉末が強風に煽られ, 微細な粉末として空気中に浮遊し, 容易に住民に吸引されると思われる。この吸引が沖縄での呼吸器障害の多発に関与している可能性が高いと考え, 実験的にマウスに吸引させ人工的に塵肺症を作る実験を継続している。エアロゾルの吸引では曝露1カ月では著変はないが, 2カ月目から急激に肺内沈着量が増加して肺病変が多発し, やがて異物性肉芽の像を呈することが証明出来た。

また, 剖検例の肺を材料とした検索をしているが, 検索例24例全てにシルト岩粒子の沈着を見た。ジャーガルのEMAXのよるX線回析分析の結果, Si, Al, Fなどを多く含む雲母などと類似の鉱物であることが分かり, 肺組織内に沈着した粒子もEMAXで同じ成分分析の結果を示した。

 さらに, 肺組織を凍結乾燥し, 苛性ソーダで組織を融解濾過して, 肺組織の乾燥重量当たりの異物量を測定した。その結果は10.5~134.6mg/gであり, 平均で56.7mg/g沈着していた。

 実験的にマウスの気道内に泥粒子の懸濁液を注入をした実験をした。3日連続して気道内に0.1ml注入した後1週間で, エアロゾル吸入後2カ月の場合と同様の病変を作成することが出来た。現在は, この方法による慢性病変の作成, 検索を進めている。

 

5. 長期室温保存骨髄塗沫標本を用いたFISH法による白血病の遺伝学的解析 (百名伸之, 伊藤悦男)

 白血病における染色体異常の解析にFISH法の有用性が示されているが, 検体として主に培養細胞や新鮮凍結塗沫標本などが用いられている。文献的に室温保存塗沫標本でのFISHも試みられているが, hybridizationの効率に問題があった。そこで長期の室温保存骨髄塗抹標本を用い, これをNaSCNおよび高濃度のペプシンで前処理することにより効率の良いFISH法を確立した。本法を用いて数的染色体異常をもつ白血病クローンを個々の細胞レベルで同定することができ, さらに細胞形態像と対比させることによりクロナリティの解析や残存腫瘍の検出も可能となった。現在, 過去の症例の検体を用い, 染色体異常と病態, 予後との関連についてretrospective に解析をおこなっている。

 

 

B. 研究業績

 

1. 原著

G97001: 伊藤悦男, 嘉陽清美, 新垣有正, 森岡孝満, 宮城恵利子, 大城吉秀 (1996) 沖縄の特殊土壌中のシルト岩粉末による実験塵肺症の試作. 琉球医会誌 16 185-187.

G97002: Ohshiro Y, Shimada K, Morioka T, Miyagi M, Qureshi M H (1997) The present situation and problems in the mass screening of lung cancer in relation to the law for preservation of the health of the elderly in Okinawa. Ryukyu Med J 17 15-19.

 

G97003: Sunagawa T, Nakasone H, Kochi A, Sakugawa H, Kinjo F, Saito A, Morioka T, Arakaki Y, Ito E (1997) An autopsy case report of T-cell lymphoma accompanied by hemophagocytic syndrome and acute hepatic failure. Ryukyu Med J 17 57-60.

 

G97004: Ameho CK, Adjei AA, Harrison EK, Takeshita K, Morioka T, Arakaki Y, Ito E, Suzuk I, Kulkarni AD, Kawajiri A, Yamamoto S (1997) Prophylactic effect of dietary glutamine supplementation on interleukin 8 and tumour necrosis factor ?production in trinitrobenzene sulphonic acid induced colitis. GUT 41 487-493.

 

G97005: 百名伸之, 成富研二, 知名耕一郎, 具志堅俊樹, 當間隆也, 伊藤悦男 (1997) FISHによりクローン解析を行ったde novo AML with myelodysplasia. 臨床血液 38 776-781.

4. 報告

H97001: 伊藤悦男, 嘉陽清美, 新垣有正, 森岡孝満, 宇根三矢, 范浩, 宮城恵利子 (1997) 沖縄の剖検例における慢性肺疾患と土壌 (シルト岩) 粒子の沈着との関係の解析. 日病会誌 86 293.

 

H97002: 大城吉秀, 森岡孝満, 嘉陽清美, 宇根三矢, 新垣有正, 島田勝政, 范浩, 伊藤悦男 (1997) 固形腫瘤に対する抗腫瘍物質RBFの作用機序の組織学的検討. 日病会誌 86 288.

           

H97003: 森岡孝満, 大城吉秀, 伊藤悦男, 新垣有正, 宇根三矢, 嘉陽清美, 宮城恵利子, 范浩, 島田勝政 (1996) 米糠由来抗腫瘍性物質RBFのEhrlich 腹水癌細胞に対するapoptosis誘発に関する研究. 日病会誌 86 288.

 

H97004: 百名伸之, 伊藤悦男, 知名耕一郎, 具志堅俊樹, 當間隆也, 成富研二 (1997) 染色骨髄塗沫標本を用いたFISH法による急性骨髄性白血病のクローン解析. 臨床血液 38 857.

 

5. その他

M97001: 百名伸之, 知名耕一郎, 具志堅俊樹, 平山清武(1997)洗浄血小板による非溶血性輸血副作用の回避. 日輸血会誌43 185.