生理学第一講座

 

A. 研究課題の概要

 

1. クロット形成後トロンビンの構造変化と活性特性

 血栓溶解療法やPTCA, PTCR後にしばしば再狭窄の発現がみられる。この再狭窄発現には凝固系因子のトロンビン, 特にクロット形成後トロンビンが主役を演じている。本研究では, クロット形成後トロンビンの抑制による再狭窄防止を意図し, 検討を行っている。まず, クロット形成後トロンビンの濃度測定のためのELISA-Sandwich法を確立した。次いで, トロンビンとクロット形成後トロンビンの生化学的性質の比較を行うために, 合成基質S-2238を用いてアミド分解活性を測定し, 反応速度論的に解析を行っている。クロット形成後トロンビンは, Intact-ThとBound-Thに分けられた。Type I collagenと反応後のトロンビン (C-Th) をこれらトロンビンの対象とした。クロット形成後トロンビンは, C-Thに比してS-2238への親和性が強い結果を示した。しかしながら, アルガトロバンのクロット形成後トロンビンに対する阻害定数を求めた結果からは, Bound-Thに対してはアルガトロバンの抑制効果の低いのが明らかとなった。Bound-Thは, フィブリノーゲン由来産物と結合しており, この結合部位や様式が, トロンビン阻害剤とクロット形成後トロンビンの反応性に大きな影響を与えているものと予想される。今後は線溶系酵素を用いて, クロット形成後トロンビンとフィブリノーゲン由来産物の結合を取り除き, クロット形成後トロンビンの構造変化やトロンビン阻害剤による抑制効果発現の機序を明らかにしたい。

 

2. ハブ毒由来トロンビン様酵素ハブトビンの家兎フィブリノーゲン分解機序の解明

 我々は, ハブトビンは家兎フィブリノーゲンのA?鎖Arg16-Gly17結合のみを水解してフィブリノペプチドA (FPA) のみを遊離し, フィブリン塊を形成することを既に明らかにした。本研究では, 家兎FPA断片ペプチドのハブトビンのFPA遊離に対する抑制を調べ, ハブトビンのFPA遊離に関与する家兎フィブリノーゲンAα鎖の責任アミノ酸残基の特定を試みる。さらには, ハブ顎下腺よりcDNAライブラリーを作製し, ハブトビンのcDNAのスクリーニングおよびcDNAのシークエンシングを行い, ハブトビン分子の一次構造および高次構造の解析を行う。そして, 解析された分子構造からハブトビンの特異的反応機序の解析を試みる。

 

3. 抗原特異的ラットIgEの体内動態

 血中IgEレベルはアレルギー疾患においてしばしば上昇するが, 逆にIgEレベルが正常でもアトピーの存在は否定できず, IgEレベルの多寡だけではアレルギー反応の状態を把握出来ないこともよく知られている。血中IgEレベルを調節するメカニズムを知るためにIgEの体内動態を調べることが重要であると思われる。非感作ラット, OVA感作ラットにモノクローナルDNP特異的ラットIgEを投与し, 経時的に採血し, 血清中のDNP特異的ラットIgEの定量を行った。非感作と感作の場合で血中IgEの濃度推移に差異が見られるかの検討を行った。IgE投与後3時間後までは血中濃度は急激に減少を示し以後は緩やかな減少を示した。IgEの血中半減期はともに12時間であった。今後はDNP感作ラットを用い, IgEの体内動態を追及する。

 

4. ラット大動脈内皮細胞のIgE透過性

 抗原特異的IgEの血管外遊出機序を明らかにするために, 血管外遊出が血管内皮細胞上あるいは血小板膜上のIgEレセプターを介するのか, さらには細胞間隙からの移行によるのかを検討している。また, histamineなどの生体内因子が, 血管内皮細胞とIgEの相互作用にどのような影響を及ぼすのかも検討している。一方, 抗アレルギー薬が, histamineを介する内皮細胞のIgE透過性に影響を及ぼすかを検討している。

 

5. IgE産生細胞由来のIgE産生抑制物質の検討

 我々の教室では, DNP-specific rat IgE産生細胞 (FE-3 細胞) をすでに確立している。そのFE-3細胞をスピンナーフラスコを用いた浮遊培養を行うと, 培養開始後3日目以降IgE産生量が急激に低下するのが確認されている。そこで我々は, 大量のIgEを効率的に得るために, パーフュージョン・ポンプを用いた灌流培養装置を考案し, FE-3細胞の培養を行った。ついで生細胞数およびIgE産生量の推移を浮遊培養による結果と比較した。それらの実験結果より, 二つのシステムを用いた培養法のうち, どちらのシステムを用いた方が大量のIgEを効率的に得ることができるかを解析した。現在までの結果では, パーフュージョン・ポンプを用いた灌流培養の方が大量のIgEを効率的に得られることが明らかとなった。以上の実験結果をもとに, FE-3細胞由来のIgE産生抑制物質の分離, 同定に着手した。

 

6. 中国南部にみられる蛇咬症患者の止血機構破綻機序

 中国南部 (広西省) における蛇咬症患者の血液学的検討は, これまでには行われていない。広西医科大学救急部との共同研究により, 蛇咬症患者の血小板機能, ?2-プラスミンインヒビター活性, アンチトロンビンV活性, フィブリノーゲン量, FDP量を測定した。蛇族の種類の異なる蛇咬症においては, これらの止血機構関与物質の咬傷発生後の推移が異なっているのがみられた。特に咬傷発生後早期から止血機構破綻が著明にみられる症例がある。このような症例の原因蛇族を特定し, 粗毒に含まれる成分分析を行い, 原因成分の特定を行う。

 

 

B. 研究業績

 

1. 原著

G97001: Sunagawa M, Kosugi T, Nakamura M, Hanashiro K, Kinjoh K (1996) The role of fibrinolytic enzymes in inflammatory process of the upper airway and control of the inflammation by antiplasminic agents. Ryukyu Med J 16 157-164.

 

G97002: Hanashiro K, Kosugi T, Nakamura M, Sunagawa M (1997) Differences between changes of antigen-specific IgE antibody level and those of IgG antibody level estimated by enzyme-linked immuno-sorbent assay (ELISA) in rats following sensitization with DNP-Ascaris. Jpn J Inflam 17 51-56.

 

G97003: Kinjoh K, Nakamura M, Sunagawa M, Hanashiro K, Kosugi T (1997) Concomitant measurement of fibrinopeptide A and B in rabbit plasma using high-performance liquid chromato- graphy. Jpn J Thromb Hemost 8 134-143.

 

G97004: Kinjoh K, Kosugi T, Nakamura M, Hanashiro K, Sunagawa M, Tokeshi Y, Eguchi Y (1997) Habutobin splits the Arg16-Gly17 bond in the A? chain of rabbit fibrinogen. Thromb Haemost 77 1127-1128.

 

G97005: Huang GW, Nong HT, Yu QS, Kinjoh K, Nakamura M, Kosugi T (1997) Platelet aggregation in head and neck tumors in China. Laryngoscope 107 1142-1145.

 

G97006: Sunagawa M, Huang GW, Nakamura M, Kosugi T (1997) The concentration of u-PA and PAI-1 antigen in tissue extracts of nasopharyngeal carcinoma. Eur Arch Otorhinolaryngol 254 277-280.

 

G97007: Hanashiro K, Tamaki N, Koga T, Nakamura M, Kinjoh K, Kosugi T (1997) Inhibitory effect of azelastine hydrochloride and suplatast tosilate on airway responses in sensitized rats following exposure to antigen. Int J Tiss Reac XIX 163-169.

 

G97008: Kinjoh K, Kosugi T, Koga T, Ueda T, Ariizumi M (1997) Removal of malodorous substances at an animal facility in a subtropical region equipped with COSA/TRON( system. Ryukyu Med J 17 135-141.

 

G97009: Yokoshiki H, Katsube Y, Sunagawa M, Seki T, Sperelakis N (1997) Disruption of actin cytoskeleton attenuates sulfonylurea inhibition of cardiac ATP-sensitive K+ channels. Pfugers Arch Eur J Physiol 434 203-205.

 

G97010: Yokoshiki H, Katsube Y, Sunagawa M, Sperelakis N (1997) The novel calcium sensitizer levosimendan activates the ATP-sensitive K+ channel in rat ventricular cells. J Pharmacol Exp Ther 283 375-383.

 

G97011: Yokoshiki H, Katsube, Sunagawa M, Sperelakis N (1997) Levosimendan, a novel Ca2+ sensitizer, activates the glibenclamide-sensitive K+ channel in rat arterial myocytes. Eur J Pharmacol 333 249-259.

 

G97012: 砂川昌範, 小杉忠誠(1997)ハブ毒由来トロンビン様酵素 (ハブトビン) のウシ血管内皮細胞からのプラスミノーゲンアクチベーターの放出. 臨床病理 特104 (立山シンポジウム] 血液凝固・線溶・血小板・血管の基礎と臨床) 143-149.

 

2. 総説

S97001: 小杉忠誠, 砂川昌範, 花城和彦, 金城紀代彦, 中村真理子 (1997) 排卵への蛋白分解酵素の役割 (1) 線溶系酵素の役割. 琉球医会誌 17 1-6.

 

4. 報告

H97001: 渡慶次賀博, 中村真理子, 金城紀代彦, 花城和彦, 小杉忠誠 (1997) ハブトビンに対する抑制物質の検討. 日生理誌 59 78.

 

H97002: 花城和彦, 玉城昇, 小杉忠誠, 嘉数朝一, 兼島洋, 斎藤厚 (1997) 沖縄県地方の喘息発作誘発と気象因子との関連. アレルギー 46 820.

 

H97003: Hanashiro K, Tamaki N, Koga T, Tokeshi Y, Nakamura M, Kinjoh K, Kosugi T (1997) Antiallergic drugs inhibit airway responses in sensitized rats following exposure to DNP-Ascaris. Inflam Res 46 S230.

 

H97004: Nakamura M, Tokeshi Y, Kinjoh K, Hanashiro K, Sunagawa M, Kosugi T (1997) The neutralization of clotting activity of T. flavoviridis venom by habu antivenom. Jpn J Physiol 47 S103.

 

H97005: Kinjoh K, Nakamura M, Eguchi Y, Kayo S, Kosugi T (1997) Cleavage site of the A? chain of rabbit fibrinogen by habutobin. Jpn J Physiol 47 S103.

H97006: Hanashiro K, Tamaki N, Koga T, Tokeshi Y, Sunagawa M, Nakamura M, Kosugi T (1997) Relationship between the airway responses and the IgE level in sensitized rats. Jpn J Physiol 47 S105.

 

5. その他

M97001: 小杉忠誠 (1997) 沖縄のハブ. マルホ皮膚科セミナー放送内容集 No.130 24-28.

 

M97002: 小杉忠誠, 上田智之, 古閑敏徳, 佐藤良也, 井上文英, 有泉誠, 古田賢治 (1997) 琉球大学医学部における「実験動物」教育の現状. アニテックス 9 111-114.