解剖学第一講座

 

A. 研究課題の概要

 

1. ヒト胚子・胎児における脳の形態形成と血管床の発生との関係 (平田幸男)

 ヒト胚子における中枢神経組織内の血管床の発生を, エポキシ樹脂に包埋した頭部の2.5?連続染色切片の観察により解析した。その結果, ヒト胚子では, 中枢組織への血管の最初の進入は, 神経管が閉管となるステージ13 (受精後26日頃) で第2から第6菱脳分節の隣接する分節の境界部分に, 未熟な内皮細胞が作る最初から内腔のある血管が, ループ状に入り込むことから始まることが分かった。この後, 後脳の血管床は急速に吻尾に拡がっていく。

 胎児期のヒト脳の血管床の形成過程は, 正常連続切片の観察に加えて, 左心室から墨汁を注入した例についても観察した。前脳とくに終脳では, 血管床の形成は, 神経組織の構築形成と密接な関係を示す。特に, 外套域では, この領域の構築形成の勾配に平行な勾配が血管床の形成においても認められる。しかし, 側脳室の脳室層から, 放射方向に外套表面に向かっての方向では, 脳室下層から外方へ, 形成されつつある皮質板へ向かって移動中の細胞集塊が見られる中間帯中の血管床の密度の高さが特に目立つ。

 なお, 前脳基底部では, 前有孔質から前脳基底部に入り, 背方へ向かって延びる動静脈 (穿通枝) に沿って, 神経節丘の内側半の脳室下層の細胞の一部が, 腹方に向かって, 血管外膜上腔を移動していると解釈される像がしばしば認められた。これら腹方に移動する細胞群は前脳基底部表面に達すると, 側方に向かって軟膜下を移動しつつ拡がり, 側頭葉内側皮質, 島皮質の軟膜下顆粒層に続くこと分かった。

 

2. 南西諸島人骨格の形質人類学的研究 (土肥直美, 瑞慶覧朝盛, 泉水奏)

 南西諸島人の起源および成立過程を解明するために, 沖縄県を中心に出土人骨の調査・研究を進めているが, その中で, 沖縄の先史時代人とグスク時代以降の人びとの形質に, 時代変化が見られることが分かってきた。形質の時代変化は沖縄諸島周辺および奄美諸島で確認されている。しかしながら, 琉球列島の南の玄関口である先島地方については, 人骨の出土例が極端に少なく, 研究はほとんど進んでいない。特に, 先史時代人骨については皆無の状況である。そこで, 我々はこの南西諸島人にみられる形質変化の研究をさらに進め, また, これまでまったく分かっていない先島の人骨調査を進めることによって, 南西諸島における人類史解明を目指している。

 

3. 鶏胚骨盤部における末梢神経および血管の発生 (瑞慶覧朝盛)

 鶏胚における発生学的研究は, 約1世紀にわたり多くの研究者によってなされている。しかし, 末梢神経や血管の発生は, 初期において為されているのがほとんどであり, 研究対象部位は頭部や体肢が多い。骨盤部における末梢神経の発生学的研究が為されにくい理由のひとつは, その初期発生の複雑さにある。発生において脊椎動物は, すべからく吻側から尾側方へ発生の勾配が存在する。これまでの検索から, 鶏胚中期 (3.5〜11日) は, 骨盤部において神経および血管が将来の成体像を形成し, 生理的機能を獲得する時期であることが形態学的検索からわかってきた。けれども, 鶏胚中期の骨盤部における末梢神経および血管形成過程の詳細な記載はない。よって, 経時的に末梢神経と血管の形成過程を調べるとともに, 神経伝達物質の出現時期を明らかにし, 孵化後まで経時的に神経伝達物質の存在のあり様を検索したい。

 

4. 原索動物海鞘における, 受精時の卵活性化機構 (泉水奏)

 全ての動物卵において, 卵内Ca2+の上昇が卵の受精に依存する様々な変化の引き金となっている。現在, 海鞘卵での受精後の卵内Ca2+の変動とそれに伴う減数分裂の進行および体細胞分裂への移行の関係を調べている。海鞘卵では卵内Ca2+は受精直後一過的に上昇しその後, 第2減数分裂時に周期的な上昇を繰りかえす。Ca2+イオノフォア処理, Ca2+緩衝液, Ca2+キレーター, IP3の卵内への注入より人為的にCa濃度を変化させた結果, 最初の卵内Ca2+の上昇は第2減数分裂中期までの過程, 第2の周期的なCa2+の上昇はその後の減数分裂過程を引き起こしていることが明らかとなった。そして, Ca2+の上昇に関するGTP結合タンパク, IP3レセプター, さらに2期に分けられるCa2+の上昇と前核形成, DNAの合成, など体細胞分裂への移行との関係について, 研究が進行中である。

 

 

B. 研究業績

 

1. 原著

G97001: 平田幸男, 野原敦 (1997) ヒト脳内血管の発生. Brain Medical 9 7-14.

 

4. 報告

H97001: Hirata Y, Nohara A (1997) Emergence of the vascular bed in the human embryonic brain. Acta Anat Nippon 72 48.

 

H97002: Hirata Y (1997) Cell migration along the blood vessels in the basal forebrain of the human fetal brain. Acta Anat Nippon 72 560.

 

H97003: Doi N, Dodo Y, Kondo O (1997) Amami-Okinawans as viewed from cranial measurements. Anthropol Sci 105 79.

 

H97004: Dodo Y, Kondo O, Doi N (1997) Amami-Okinawans as viewed from cranial nonmetric traits. Anthropol Sci 105 78.

 

H97005: Sensui N, Hirata Y (1997) Myelination in the central nervous system of Xenopus observed by polarization microscopy during the metamorphosis. Acta Anat Nippon 72 310.

 

5. その他

M97001: 土肥直美 (1996) 伊祖の入め御拝領墓出土の人骨. 伊祖の入め御拝領墓 浦添市教育委員会 20-30.