薬理学講座

 

A.研究課題の概要

1.大学医学部附属病院薬剤部における臨床薬理学の学部学生教育並びに卒後教育 (坂梨又郎, 樋口マキヱ, 松崎俊博, 仲宗根淳子, 糸嶺 達)

 我々は, 先に大学医学部の基礎薬理学講座に調査を実施し, 臨床薬理学教育態勢の不備と講座開設の要望が強いことを指摘した。今回は, 対象を附属病院薬剤部とし, ほぼ前回と同じ調査を実施した。回答は, 40施設から得られた。学部学生教育は68%で実施されており, カリキュラムとしては薬物治療学や薬物動態学が中心であった。また, 教育担当者は93%の施設で薬剤部スタッフが関与していた。一方, 卒後教育は23%でしか行われておらず, カリキュラムもセミナー程度であった。臨床薬理学教育実施にあたっての弊害事項としては, スタッフと時間の不足が主たるもので, 学問体系の整備・講座の開設・薬剤師の教育職化が将来像として提唱された。

 

2.糖尿病心臓の心不全発生機序におけるKATP チャネル阻害の関与 (樋口マキヱ, 宮城香奈子, 仲宗根淳子, 坂梨又郎)

 糖尿病患者における心不全の発生頻度は非糖尿病患者より多いが, それは必ずしも糖尿病心臓の虚血梗塞部領域や冠動脈硬化の程度がより大きいからではないようだと報告されている。これまでの研究において我々は, 糖尿病心臓の方が低流量灌流障害を受けやすいこと, 特に, ノルエピネフリン付加低灌流時, 左心室ステフネス増加および局所心筋エネルギー代謝異常が容易に, 且つ内膜下心筋層において顕著に発現することを報告している。今回はまず, これらの局所低灌流障害は局所心筋灌流量の減少と良く相関していることを確かめた。虚血時のKATP チャネル開口は心筋保護に働くと考えられているが, このチャネルの抑制作用を持つ経口糖尿病治療薬を投与されている患者の方が非投与患者より死亡率が高いという報告がある。そこで, 糖尿病心臓の心不全発生機序におけるKATP チャネルの関与を明らかにする必要があると考え本研究を行った。第二世代スルホニルウレア系糖尿病治療薬で特異的KATP チャネル阻害作用を持つグリブリドは, 糖尿病心臓のこれらの低流量灌流障害を増悪し, インシュリンおよび選択的K+チャネル開口薬レブクロマカリムはこのグリブリドの有害な作用を阻止することを明らかにした。本研究は, 糖尿病心臓の虚血時の病態と治療におけるKATP チャネルの関与について新知見を加えた。

 

3.血小板活性化因子(PAF)による血行動態と血液に対する効果について(野口克彦, 松崎俊博, 城間 昇, 尾尻義彦, 坂梨又郎)

 PAFは, リン脂質に分類されるオータコイドで, 心血管系に対して多彩で強力な作用を示すが, その作用機序については十分に解明されていない。今回, 我々は麻酔開胸犬を用いて, PAFの循環作用を薬理学的に解析した。PAFを静脈内投与すると, 投与直後の軽度の全身血圧の低下とそれに引き続くより著明な血圧低下の二相性の降圧がみられ, また白血球数と血小板数の一過性減少・血液濃縮がみられた。これら変化は, PAF受容体拮抗薬により消失した。一方, 一酸化窒素(NO)合成阻害薬では, PAFによる第一相の降圧及び全末梢血管抵抗の低下が抑制され, 血小板数減少作用の増大がみられた。PAFによる第二相の降圧と肺血管抵抗の上昇は, シクロオキシゲナーゼ阻害薬とトロンボキサンA2受容体拮抗薬で, またPAFによる陰性変力作用は, 5-リポキシゲナーゼ阻害薬でそれぞれ抑制された。以上より, PAFの心血管作用には, トロンボキサンA2やロイコトリエンだけでなく, NOも関与することが示唆された。

 

4.ニトロ化合物による血管弛緩効果並びに耐性発現について (松崎俊博, 安仁屋洋子, 坂梨又郎)

 有機硝酸剤による弛緩反応と耐性の発現に関与するとされる血管内グルタチオン量, グルタチオン S-トランスフェラーゼ活性及びNO産生量をブタ冠動脈において測定したが, 血管内グルタチオン 量の減少は, ニトログリセリンの弛緩作用と耐性発現には関与しないことがわかった。また, 細胞内の酵素を利用するNO産生は, 全体の13%しか認められず, さらに, グルタチオン S-トランスフェラーゼ阻害薬ではニトロ化合物からのNO産生が抑制されなかったことより, グルタチオン S-トランスフェラーゼ活性はほとんどNO産生に関与していないことが推察された。

 

 

B.研究業績

1.原著

G9601: Noguchi K, Matsuzaki T, Shiroma N, Ojiri Y, Sakanashi M (1996) Involvement of nitric oxide and eicosanoids in platelet-activating factor-induced haemodynamic and haematologic effects in dogs. Brit J Pharmacol 118 941-950.

 

G9602: Aniya Y, Uehara N, Ishii C, Suenaga T, Wada N, Matsuzaki T, Sakanashi M (1996) Evaluation of nitric oxide formation from nitrates in pig coronary arteries. Jpn J Pharmacol 71 101-107.

 

3.著書

T9601: 野口克彦, 坂梨又郎 (1996) ?. 強心薬の分子薬理 5) 内因性強心物質, 篠山重威編, 「強心薬-現状と将来への展望」, (南江堂), 東京, 78-83.

 

T9602: 樋口マキヱ, 坂梨又郎 (1996) 低灌流糖尿病心臓におけるグリコーゲン分解とステフネス増加 心筋代謝研究会編, 「心筋の構造と代謝-1995」, (六法出版社), 東京, 18 171-180.

 

4.報告

H9601: 樋口マキヱ (1996) 基礎疾患と不完全虚血:臓器障害および薬物効果の差異. 第69回日本薬理学会年会 (シンポジウム基調講演), 長崎, Jpn J Pharmacol 71 Suppl. I 7.

 

H9602: 樋口マキヱ, 宮城香奈子, 仲宗根淳子, 坂梨又郎 (1996) 摘出低灌流下の非糖尿病と糖尿病心臓におけるKATP channel agentsに対する感受性の違い. 第69回日本薬理学会年会, 長崎, Jpn J Pharmacol 71 Suppl. I 227.

 

H9603: 野口克彦, 松崎俊博, 尾尻義彦, 糸嶺 達, 坂梨又郎 (1996) サポニン誘発うっ血性心不全モデルにおけるnicorandilとnitroglycerinの作用. 第69回日本薬理学会年会, 長崎, Jpn J Pharmacol 71 Suppl. I 226.

 

H9604: 仲宗根淳子, 樋口マキヱ, 宮城香奈子, 坂梨又郎 (1996) 外液Ca濃度の変動における非糖尿病および糖尿病ラット大動脈の反応性について. 第69回日本薬理学会年会, 長崎, Jpn J Pharmacol 71 Suppl. I 231.

 

H9605: 小山智之, 江口幸典, 坂梨又郎, 烏谷 出, 安仁屋洋子 (1996) オニヒトデ(Acanthastar planci) 棘皮から単離した抗凝固物質plancininの作用機序. 第116回日本薬学会年会生物化学部会, 金沢, 日本薬学会第116年会講演要旨集 3 136.

 

H9606: 小山智之, 安仁屋洋子, 松崎俊博, 野口克彦, 仲宗根淳子, 宮城香奈子, 樋口マキヱ, 坂梨又郎 (1996) オニヒトデ棘皮から単離した血液凝固抑制成分プランシニンの作用機序について. 49回日本薬理学会西南部会, 熊本, 日薬理誌 109 79.