ウイルス学講座

 

A.研究課題の概要

1.デング-日本脳炎キメラウイルスの作成とその性状の検討 (牧野芳大, 只野昌之, 馬 紹平)

 日本脳炎 ウイルス(JEV)やデングウイルス(DEN)はフラビウイルス科に属するウイルスで,その遺伝子構造は類似している。JEVの外殻蛋白遺伝子のcDNAを全長のDEN遺伝子cDNAの該当遺伝子領域に組み換えた。このcDNAからin vitroでRNA転写を行い, 転写物を培養細胞内に導入したところ, JEVの外殻をもったDEN(キメラウイルス)が産生された。このキメラウイルスは親ウイルスであるJEVやDENに比べ, 病原性が非常に低くなっていることがマウスを用いた実験でわかった。このキメラウイルスの性状を更に詳しく調べ, キメラウイルスを用いた弱毒生ワクチン作成に関する基礎的研究を行っている。

 

2.沖縄で分離された日本脳炎ウイルスの分子疫学 (馬 紹平, 牧野芳大, 福永利彦)

 1968年から1992年に沖縄本島で分離された23株の日本脳炎ウイルスのC-preM, 一部E領域の塩基配列を調べた結果,1992年の2株はC-preM領域で5%の変異を示した。そこで本島南部の一定点で1992年に分離された7株すべてのC-preM, 一部E領域を調べた。その結果,1992年当定点では2種類のウイルスが伝播していたことが明らかになった。

 

3.アデノ随伴ウイルスの疫学的研究 (牧野芳大)

 子宮頚癌の原因としてヒトパピローマウイルスの感染が最も重要な因子であることが報告されている。一方, 子宮頚癌患者群ではアデノ随伴ウイルス(AAV)に対する抗体保有率がそれ以外の群に比べ有意に低いことも報告されている。しかしその関連性は不明である。沖縄における子宮頚癌の発生率は非常に高い。我々はドイツ ハイデルベルグ癌研究所および本学産婦人科との共同研究でAAV抗体測定法を確立した。これを用い沖縄県における子宮頚癌患者の中のAAV抗体保有状況を調査している。

 

4.ラオスにおけるフラビウイルス感染症の疫学(Drouny Phonekeo, 只野昌之, 牧野芳大, 馬 紹平, 加根村和美, 斎藤美加, 福永利彦)

 ラオスの公衆衛生上問題となるウイルス感染症としては,他の東南アジア諸国と同様,デング熱/デング出血熱が重要である。デングウイルスに対するワクチンは開発途上にあり,しかも,完成に至る見通しがまだ立っていない。そのコントロールは,媒介蚊の繁殖場所を極力減らし,また,蚊の吸血を防ぐネットの使用を奨励することしかない。防御ネットとしてペルメトリンを練り込んだポリエチレン繊維のオリセット・ネットが有効というデータがあり,それを確認する実験をヴィエンチャン郊外の村で実施した。その結果は,現在とりまとめ中である。当教室で研修中のDarouny Phonekeoは,ヴィエンチャン以外のプロヴィンスで起こったデング出血熱患者血清を持参し,それから11株のデングウイルスを分離・同定した(DEN-1:1株,DEN-2:4株,DEN-3:6株)。一方,これまでデングウイルスの分離に成功したことがなかったヴィエンチャンのNIHEにおいて, 当教室で研修を受けた Phonoesavahが分離に成功し, 現在も進行中である。これは技術移転の観点から, 大きな成果の一つである。

 

5.ラオス国で分離された日本脳炎ウイルスの性状の検討 (斉藤美加, 馬 紹平, 福永利彦)

 ビエンチャンの豚血清から2株のJEVが分離された。このJEVの遺伝子型はカンボジアから北部タイに分布しているグループに属することがわかった。また, ラオスの健常人の血清中にはJEVのラオス株と強く反応するグループと中山株, 北京株と強く反応するグループとがあることが判明した。

 

 

B. 研究業績

1.原著

G96001: Ma S-P, Arakaki S, Makino Y, Fukunaga T (1996) Molecular epidemiology of Japanese encephalitis virus in Okinawa. Microbiol Immunol 40 847-855.

 

G96002: Makino Y, Inoue R, Kanemura K, Fukunaga T (1996) A serological study of dengue virus infection among Japanese residents in Manila. Jpn J Trop Med Hyg. 24 221-223.

 

G96003: Sistayanarain A, Maneekarn N, Polprasert B, Sirisanthana V, Makino Y, Fukunaga T, Sittisombut N. (1996) Primary sequence of the envelope glycoprotein gene of a dengue type 2 virus isolated from patient with dengue hemorrhagic fever and encephalitis. Southeast Asian J Trop Med Public Health 27 221-227.

 

G96004: Shiraishi M, Kusano T, Hara J, Hirano S, Ma S-P, Makino Y, Muto Y (1996) Adenovirus-mediated gene transfer using ex-vivo perfusion of the heart graft. Surgery Today 26 624-628.

 

2.総説

S96001: 福永利彦, 牧野芳大 (1996) 日本脳炎. 最新内科学体系 67 105-112.

 

3.著書

T96002: 福永利彦, 只野昌之, 牧野芳大 (1996) 沖縄県における日本脳炎. 琉球大学医学部附属地域医療研究センター, 沖縄の疾病とその特性, 九州大学出版会, 福岡, 149-162.

 

4.報告

H96001: 馬 紹平, 新垣 榮, 牧野芳大, 福永利彦 (1996) 沖縄における日本脳炎ウイルスの分子疫学. 第31回日本脳炎ウイルス生態学研究会プログラム・抄録集 18.

 

H96002: Ma S-P, Arakaki S, Makino Y, and Fukunaga T (1996) Molecular epidemiological study on isolates of Japanese encephalitis virus in Okinawa. Thirtieth Joint Working Conference on Viral Diseases, The Japan-United Staes Coopratives Medical Science Program 11.

 

H96003: 馬 紹平, 新垣 榮, 牧野芳大, 加根村和美, 斉藤美加, 福永利彦 (1996) 沖縄本島で分離された日本脳炎ウイルスの分子疫学. 第44回日本ウイルス学会総会抄録 157.

 

H96004: 斉藤美加, 加根村和美, 馬 紹平, 牧野芳大, 福永利彦 (1996) ラオス国で分離された日本脳炎ウイルスの血清疫学的,ウイルス学的検討. 第44回日本ウイルス学会総会抄録 157.

 

H96005: Makino Y (1996) Molecular epidemiology of Japanese encephalitis virus isolates in Okinawa, Japan. XIVth International Congress for Tropical Medicine and Malaria 128.

 

H96006: Saito M, Phommasack B, Fukunaga T, et al (1996) DF/DHF epidemics in Vientiane, Lao. P.D.R. in 1994. XIVth International Congress for Tropical Medicine and Malaria 157.

 

H96007: 牧野芳大, 只野昌之, 松尾幸子, 長谷部 太, 馬 紹平, 五十嵐 章, 福永利彦, Ching-Juh Lai (1996) 日本脳炎-デングキメラウイルスの作成. 第14回バイオ研究会ワークショップ抄録集 4.

 

H96008: 五十嵐 章, 森田公一, 長谷部 太, 牧野芳大, 森川 茂 (1996) フラビウイルス非構造蛋白質NS3の生物活性. 長崎大学熱帯医学研究所共同研究報告書 平成7年度 1-2.

 

H96009:福永利彦 (1996) 沖縄で分離された日本脳炎ウイルスの分子疫学. 乳酸菌研究会に関する報告書 平成7年度 581-585.

 

H96010: 宮城航一, 六川二郎, 牧野芳大, 福永利彦, 新垣 榮, 只野昌之, 馬 紹平 (1996) HSVtk / ganciclovirを用いた遺伝子療法におけるBystander effectと細胞周期作用物質の検討. 第4回脳腫瘍遺伝子療法懇話会 17.

 

H96011: 宮城航一, 銘苅晋, 六川二郎, 牧野芳大, 福永利彦, 只野昌之 (1996) 悪性脳腫瘍に対する遺伝子治療の基礎的研究: グリオーマーの細胞周期とレトロウイルスベクターの感染性, ギャップ結合作用物質のBystander effectに対する影響. 第55回日本脳神経外科学会 32.

 

H96012: 宮城航一, 六川二郎, 牧野芳大, 福永利彦, 馬 紹平 (1996) 悪性脳腫瘍に対する遺伝子治療: VDEPT, adenoassociate virusを用いた化学療法と腫瘍ワクチン. 第14回バイオ研究会ワークショップ抄録集 2.