歯科口腔外科学講座

 

A. 研究課題の概要

1.口唇裂口蓋裂に関する研究

 当科では,口唇裂口蓋裂患者に対して一次形成手術のみならず,術後の言語治療,歯科矯正治療を含めたチーム・アプローチを行っている。

 口蓋形成術の術式として当科では,約10年前より顎発育抑制の少ない粘膜弁変法を採用し,長期的な観察を行って顎発育に関して従来の術式との比較検討を行っている。また,最近の術後の言語成績についても調査を行い,概ね良好な結果であることを報告している。さらに,最近盛んに行われるようになってきた顎裂部に対する二次的自家骨移植の術後評価に関して,裂型や手術時期,移植骨種別に比較し,これらの因子と術後成績との関連について検討している。

 疫学的研究では,沖縄県における口唇裂口蓋裂の発生頻度の調査ならびに母体環境要因に関するケース・コントロールスタディなどの研究を行っている。

 基礎的研究としては,口蓋裂手術の術後におこる上顎骨の発育抑制,歯列,咬合の異常の機序を明らかにする目的で口蓋粘膜における創傷治癒過程の組織学的研究を行っている。本研究では,動物実験で瘢痕組織内のコラーゲン線維の形成,成熟過程および口蓋骨と瘢痕組織の結合様式に着目し,光顕ならびに走査電顕を用いて検索している。

 

2.口腔癌の臨床病理学的研究

 口腔癌のうち最も頻度の高い扁平上皮癌を対象に根治性を重視し,かつ顎顔面形態と口腔機能の温存を図る目的で,昭和60年より,各症例の臨床病理学的悪性度に基づいたinduction chemotherapyを行い,化学療法効果と悪性度に応じた外科的切除を行う体系的治療法を採用している。これら症例について臨床病理学的に研究を行っている。

 

1)口腔癌に対するinduction chemotherapyの効果に関する臨床病理学的研究

 当科で悪性度に応じてinduction chemotherapyを行った口腔扁平上皮癌症例の化学療法効果について臨床的,組織学的に検索し,化学療法効果が予後と密接に関連していることを明かにしてきた。今年度より,体系的治療として超選択的動注療法と放射線療法を併用した術前療法を採用している。今後,症例を重ね検討していく予定である。

 

2)口腔癌の頸部リンパ節転移の診断に関する研究

 頸部リンパ節転移に関して,初診時の頸部CT、USの画像所見と当科で行っている臨床病理学的悪性度および頸部郭清施行時の組織所見を検索し検討した。その結果,術前画像診断と当科で行っている臨床病理学的悪性度の評価を組み合わせることにより,正診率はCT診断では81.2%から84.6%へ,US診断では87.5%から91.1%へ上昇した。また同一のリンパ節についてCT,US,臨床病理学的悪性度の評価の行えたリンパ節の正診率は93.9%と良好な結果を得た。以上のことより,口腔癌の頸部リンパ節転移の診断において,画像診断と臨床病理学的悪性度を組み合わせることより,診断精度の向上と早期診断の可能性が示唆された。

 

3)口腔癌の頸部リンパ節転移巣に対するinduction chemotherapyの効果に関する研究

 頸部リンパ節転移巣に対するinduction chemotherapyの効果の可能性について研究を行っている。研究方法としては,化学療法前後のCT・US画像上のリンパ節の変化および組織学的化学療法効果との比較を行い、induction chemotherapyの頚部リンパ節転移巣に対する効果について検討中である。

 

4)口腔癌切除後の言語機能に関する研究

口腔癌の術後の構音障害は,?構音機能に最も関与している舌の器質的な欠損による形態や機能の障害。?術後の瘢痕収縮による残存舌の可動性の障害により左右されることが,100音節語音発語明瞭度検査および超音波診断装置を使った残存舌可動性の検査により解明された。このことにより術前に患者に対して術後の機能障害の程度を十分に説明できること(インフォ-ムドコンセント)が可能になった。

 

5)口腔癌患者のQOLに関する研究

口腔癌患者の術後のQOLを評価するために,患者自身による術後機能(言語および経口摂取)自己評価と生活状況のアンケート調査より満足度を求め,さらに100音節語音発語明瞭度検査で求めた言語機能の他覚的評価と比較検討し,口腔癌患者の術後のQOLについての評価の確立をめざしている。

 

3.顎・顔面外傷に関する研究

 当科における過去20年間の顎顔面外傷症例は1595例であった。10歳代の患者が多く,受傷原因では交通事故が最も多いが,このうちの約6割は二輪車による事故であった。受傷は夜間に多発していた。骨折の種類としては骨体骨折965例(61%),歯牙脱臼・歯槽骨骨折326例(20%),歯牙破折95例(6%),軟組織損傷209例(13%)であった。治療法としては,顎間固定による非観血的整復固定術に代わり,昭和60年以降では,ステンレス金属プレ-ト(A-Oプレ-ト,シャンピ-ミニプレ-ト)を用いた口内法による観血的整復固定術(プレート固定)を導入し,現在ではチタンミニプレ-トを用いて行っている。その結果,強固な固定が得られるために顎間固定期間が短縮され,患者の精神的・肉体的苦痛を軽減でき,早期の社会復帰が可能となった。また,最近では,口腔外科用ブラケットを用いた顎間・顎内固定法を採用し,その有用性について検討を行っている。

 

 

B.研究業績

1.原著

G96052: 比嘉優, 砂川元, 金城孝, 石嶺秀樹, 久志尚子, 金城康光 (1996) 良性セメント芽細胞腫の2例. 日口腔外会誌45巻 174-178.

 

3.著書

T96007: 砂川元 (1996) 非歯原性腫瘍. 都温彦編, 医学生を学ぶ人の歯科口腔外科テキスト. 医学情報社, 東京, 89-100 .

 

T96008: 砂川元, 山城正宏 (1996) 腫瘍類似疾患. 塩田重利監修, 道健一, 天笠光雄編集, 口腔顎顔面外科治療学. 永末書店, 東京, 218-221.

 

T96009: 砂川元, 山城正宏 (1996) 歯の異常. 塩田重利監修, 道健一, 天笠光雄編集, 口腔顎顔面外科治療学. 永末書店, 東京, 265-269.

 

T96010: 砂川元 (1996) 口の中の癌を早く見つけよう-しゃべる・たべる楽しみを失わないために-. 大橋靖, 加藤煕, 伊藤学而, 砂川元編集, かむこと,のむこと,たべること-咀嚼の科学-. 医歯薬出版, 東京, 223-240.

 

T96011: 砂川元(1996) 顔にまひのある人には,どのようにうがいをさせたらよいですか. 口腔保健研究会,日本口腔疾患研究所監修, 口腔ケア-Q&A 口から始まるクオリティ・オブ・ライフ. 中央法規出版, 東京, 75.

 

4.報告

H96155: 新崎章, 砂川元, 喜舎場学, 津波古判, 我那覇宗教 (1996) 口腔扁平上皮癌に対するinduction chemotherapyの効果に関する臨床病理学的検討. 沖縄県腫瘍治療懇話会 第10回 西原 抄録集 7.

 

H96156: 津波古判, 砂川元, 新崎章, 喜舎場学, 我那覇宗教 (1996) 口腔腫瘍へのレーザーの使用経験. 沖縄県腫瘍治療懇話会 第10回 西原 抄録集 8.

 

H96157: 津波古判, 砂川元, 新崎章, 喜舎場学, 我那覇宗教 (1996) 口腔癌頚部リンパ節に対する超音波診断の有用性. 口腔腫瘍 8 229-230. 

 

H96158: Kishaba M, Sunakawa H, Arasaki A, Tsuhako W, Ganaha M (1996) Clinico-pathological Study on Cervical Lymph Node Metastasis in the Oral Cancer. The Third Congress on Oral and Maxillofacial Surgery, Kuching, Malaysia, 59.

 

H96159: Shinya T, Sunakawa H, Gima H, Kinjo T, Arakaki K, Maekawa T (1996) A Study on Upper Jaw Arch Form after Modified Palatpplasty Using a Palatal Mucosal Flap. The Third Congress on Oral and Maxillofacial Surgery, Kuching, Malaysia, 63.

 

H96160: Kinjo T, Sunakawa H, Arasaki A, Kishaba M, Higa M, Tsuhako W (1996) A Clinical Study on Dental Suppurative Infection in the Past 3 Year. The Third Congress on Oral and Maxillofacial Surgery, Kuching, Malaysia, 64.

 

H96161: 狩野岳史, 砂川元, 新崎章, 喜舎場学, 津波古判, 我那覇宗教 (1996) 当科における舌癌症例の臨床病理学的検討. 口科誌 45 533 .

 

H96162: 津波古判, 砂川元, 新崎章, 喜舎場学, 我那覇宗教 (1996) 当科における口底癌症例の臨床病理学的検討. 口科誌 45 534.

 

H96163: 津波古京子, 砂川元, 岩政輝男 (1996) 頭頸部扁平上皮癌とHPV DNAとの関連について. 口科誌 45 740.

 

H96164: 久志尚子, 砂川元, 金城孝, 新崎章, 儀間裕, 津波古判, 比嘉優, 新垣敬一, 神谷茂, 宮里清和, 前川あやめ, 仲宗根康雄 (1996) 顎骨骨折における口腔外科用ブラケットの使用経験. 口科誌 45 827.

 

H96165: 新垣敬一, 砂川元, 儀間裕, 金城孝, 前川隆子, 古謝静男 (1996) 口唇口蓋裂を伴った上顎体の一例. 日口蓋裂誌 21 286. 

 

H96166: 儀間裕、砂川元, 新垣敬一, 新谷晃代 (1996) 口唇口蓋裂患児の母胎環境に関するケースコントロールスタディ. 日口蓋裂誌 21 296.

 

H96167: 津波古判, 砂川元, 新崎章, 喜舎場学, 我那覇宗教 (1996) 口腔癌頚部リンパ節転移に対する超音波診断の有用性. 頭頸部腫瘍 22 349.

 

H96168: 新崎章, 砂川元, 喜舎場学, 津波古判, 我那覇宗教 (1996) 当科における口腔内多発癌の臨床病理学的検討. 頭頸部腫瘍 22 351.

 

H96169: 喜舎場学, 砂川元, 新崎章, 津波古判, 我那覇宗教 (1996) 口腔扁平上皮癌の頚部リンパ節転移に関する臨床病理学的検討. 日本口腔外科学会九州地方会 第64回 北九州 抄録集 6.

 

H96170: 津波古判, 砂川元, 新崎章, 喜舎場学, 我那覇宗教 (1996) 口底癌症例の臨床病理学的検討. 日本癌治療学会 31 188.

 

H96171: 喜舎場学, 砂川元, 新崎章, 津波古判, 我那覇宗教 (1996) 口腔扁平上皮癌の頚部リンパ節転移に関する臨床病理学的検討. 日本癌治療学会 31 201.

 

H96172: 新崎章, 砂川元, 喜舎場学, 津波古判, 我那覇宗教 (1996) 舌扁平上皮癌症例の臨床病理学的検討. 日本口腔外科学会総会 第41回 東京 抄録集 268

 

H96173: 津波古判, 砂川元, 新崎章, 喜舎場学, 我那覇宗教 (1996) 口底扁平上皮癌の術後構音機能. 日本口腔外科学会総会 第41回 東京 抄録集 429.

 

H96174: 喜舎場学, 砂川元, 新崎章, 津波古判, 我那覇宗教 (1996) 口腔扁平上皮癌の頚部リンパ節転移に関する臨床病理学的検討. 日本口腔外科学会総会 第41回 東京 抄録集 266.

 

5.その他

M96006: 儀間裕, 砂川元, 金城孝, 国仲匡 (1996) 沖縄県における口唇口蓋裂の発生頻度について. 沖縄県公衆衛生学会誌 27 41-49.

 

M96007: 金城孝, 砂川元, 儀間裕, 喜久川美沢 (1996) 琉球大学教育学部附属小学校における歯科検診についての検討. 沖縄県公衆衛生学会誌 27 50-57.