生化学第一講座

 

A.研究課題の概要

1.リボソーム蛋白遺伝子の発現調節機構 

 細胞内の蛋白合成を担っているリボソームは、約 80 種の蛋白と 4 種類のRNAから出来ています。このリボソームを合成する際、各成分が等量ずつ作られていますが、このような調節がどんなメカニズムで行われているかを研究しています。

 調節に関わる転写調節因子を分離精製して、解析することを試みる一方、この調節因子の一つであると考えられるets癌原遺伝子ファミリーに属する蛋白のcDNA クローニングを行ってその構造を調べています。

 

2.人のリボソーム蛋白遺伝子の構造と先天性疾患との関係

 これまでリボソームが直接原因となっている病気は知られていませんでしたが、両親からのリボソーム蛋白遺伝子の片一方が欠ける事が、ターナー症候群あるいはその類似疾患の原因となっているのではないかと考えられるようになって来ました。私たちはこの可能性を検討するために、人のリボソーム蛋白遺伝子の構造と発現の解析を進めています。

 

3.鶏遺伝子サーフェイト領域の解析

 高等動物の遺伝子には意味を持たない部分が多く、蛋白をコードする遺伝子はこの中に互いに遠く離れているのが普通ですが、最初、マウスの遺伝子の中で腫瘍化活性のある部分として分離されたこのサーフェイト領域では、数種類の遺伝子が密に詰まっている事が知られています。このような遺伝子構成にどんな意味があるのか、この遺伝子がどんな蛋白をコードしているのかを調べています。

 

4.低分子核小体 RNA (sno RNA) の遺伝子構造

 高等動物の蛋白質や RNA をコードする遺伝子は各々独立しているものですが、sno RNA は、ある種の蛋白質をコードする遺伝子のイントロンに含まれ、 mRNA 前駆体から切り出されて作られます。このような遺伝子構成の持つ意義、進化の上の意味について研究を進めています。

 

5.遺伝性球状赤血球症と赤血球膜タンパク

 遺伝性球状赤血球(HS)は小球性の球状赤血球が末梢血中に出現する先天性溶血性貧血の内の一つです。先天性溶血性貧血の大部分はこのHSです。この疾患の病因が何処にあるのかは現在まで不明です。しかしこの赤血球膜タンパクを電気泳動的に分析した結果、バンド4.2タンパク(P4.2)の特異的な減少あるいは欠損が存在することを明らかにしてきました。この事実から、HSのP4.2の機能と、赤血球の形態に及ぼす関係を調べています。

 

6.ヘリコバクター属菌の生化学

 ヘリコバクター属菌は現在までに十数種類が分類されています。この属菌の内ヒトを宿主とする H. pylori については、潰瘍を誘導する必須条件であることが判ってきましたが、これ以外のファクターが存在しなければならないことが判っています。しかし、どのようなファクターは必要なのかは現在まで判っておりません。そこで、ヒト以外のネコ、ラット、フェレットを宿主とする属菌を用いて、これらの菌が備えている諸性質を比較生化学的に検討しています。

 

 

B.研究業績

1.原著

G9601: Nanda I, Tanaka T, Schmid M (1996) The intron-containing ribosomal protein-encoding genes L5, L7a and L37a are unlinked in chicken. Gene 170 159-164.

 

G9602: Toku S, Tanaka T (1996) A characterization of transcriptional regulatory elements in chicken ribosomal protein L37a gene. Eur J Biochem 238 136-142.

 

G9603: Quaye I K E, Toku S, Tanaka T (1996) Sequence requirement for nucleolar localization of rat ribosomal protein L31. Eur J Cell Biol 69 151-155.

 

G9604: Kenmochi N, Higa S, Yoshihama M, Tanaka T (1996) U14 snoRNAs are encoded in introns of human ribosomal protein S13 gene. Biochem Biophys Res Commun 228 371-374.

 

4.報告

H9601: Kenmochi N, Kawaguchi T S, Rozen S, Davis E, Goodman N, Page D C (1996) Mapping of 73 human ribosomal protein genes : relationship to chromosomal disorders. Am J Hum Genet 59 (4) A305.

 

H9602: 剣持直哉, Page D C, Rozen S, 川口知子, 田中龍夫 (1996) ヒトリボソーム蛋白遺伝子群の STS を用いた系統的マッピング. 生化学 68 1369.

 

H9603: 吉浜麻生, 比嘉三代美, Lennon G, Page D C, 前田紀子, 田中龍夫, 剣持直哉 (1996) ヒト第19番染色体に見られるリボソーム蛋白遺伝子のクラスター. 生化学 68 1369.

 

H9604: 井上文英, 松山玲子, 上田智之, 小杉忠誠 (1996) Helicobacter 属菌の比較生化学的検討. 生化学 68 912.

 

H9605: 井上文英, 松山玲子, 上田智之, 小杉忠誠 (1996) 動物由来Helicobacter 属菌の生化学的性質. 日本実験動物学会 187.

 

H9606: 上田智之, 井上文英, 松山玲子, 古閑敏徳, 小杉忠誠 (1996) 動物由来Helicobacter 属菌のWestern blottingによる抗原分析. 日本実験動物学会 187.