成人保健第二教室

 

A.研究課題の概要

1. エストロゲンの抗高脂血症作用に関する研究(河野)

 エストロゲンの代謝産物であるestradiol-17β(E2-17β)と2-methoxyestriol (2-MeOE3)を去勢雌ラット(ウイスター系)に投与し、血中総コレステロールを測定するとともに、子宮と肝臓を形態学的に観察した。その結果、2-MeOE3とE2-17βは、いずれも同程度の血中総コレステロール低下作用があり、肝臓における脂肪沈着を有意に抑制していた。また、子宮に対する作用については、E2-17βは2-MeOE3に比べ、子宮内膜の増殖作用強く、子宮内膜症や子宮癌を発生させる恐れがあることが示唆された。同様に遺伝性糖尿病ラットにおいても、両ホルモンを投与し、脂質代謝、肝機能への影響を検討した。その結果、E2-17β及び2-MeOE3は、糖尿病ラットにおいても抗高脂血症作用があるが、肝機能障害に対しては、E2-17βには促進作用、2-MeOE3には抑制作用があった。以上のことから、向性器作用がなく肝機能障害にも抑制的に働く、2-MeOE3は今後、高脂血症治療薬としての開発が期待できることを明らかにした。

 

2. 住民の肥満状況及び脂質代謝状態に関する研究(河野, 照屋)

 昨年、我々は沖縄県の北部3村と中部某市における住民検診受診者を対象に、過去5年間の脂質代謝並びに肝機能状態の年次推移について検討したが、今回は同データを用いて、過去5年間連続して受診した者の、とくに肥満者と高コレステロール血症者の改善状況を検討した。その結果、いずれの地域においても男女とも、肥満者は9割の者が肥満のまま経過しており、1割の者が標準又は肥満傾向へ改善していた。一方高コレステロール血症者(総コレステロール値250mg/dl以上)では、男女とも約3〜4割の者が総コレステロール値250mg/dl以下に改善しているが、逆に正常域コレステロール者(総コレステロール値220mg/dl以下)の3割が高コレステロール血症へと悪化していく傾向を認めたことから、個人データを追跡しながら、検診で異常者と認めた者以外に対しても、より積極的に継続した保健指導及び健康教育の必要性があることを報告した。

 その他、我々は中高年女性の血中脂質及び肝機能の状態についても、内臓における脂肪沈着という視点から検討を行った。その結果、脂肪肝有りの者はなしの者に比べ、トリグリセライド, GOT, GPT, 空腹時血糖, 体脂肪率が有意に高く、HDL-コレステロール、TeBG(性ホルモン結合グロブリン)が有意に低い値を示していた。なかでも、TeBGは体脂肪、HDL-コレステロール、空腹時血糖、トリグリセライドとも有意に相関性があることから、血中に存在する量は極めて少ないが、肥満や脂肪肝に伴う糖・脂質代謝の異常をより反映することが示唆され、臨床の場においてTeBGを測定することは有用であることを報告した。

 

3. 皮膚表面温度からみた自律神経状態に関する研究(河野, 照屋)

 以前、我々はサーモグラフィによる皮膚表面温度、とくに指尖部温を指標とした寒冷負荷試験及び温熱負荷試験では、自律神経機能の状態をよく反映することを明らかにしてきたが、今回は以前作成した自律神経機能の判定基準を用いて、冷え性などの機能的末梢循環障害を改善するといわれる交互浴が自律神経状態に及ぼす影響について検討を行った。その結果、6症例のうち2症例が長期に交互浴を行うことによって自律神経状態の安定がみられ、4症例は変化がみられなかった。このことから、自律神経系が反応しやすい人とそうでない人によって反応に差はあるが、交互浴で温水と冷水を交互に浸すことによって末梢の血管運動反射を高め交感神経を刺激し、自律神経中枢機能の乱れを改善する効果が示唆された。

 その他にも、我々は20歳代以上の家庭婦人及び職業婦人を対象として、更年期特有の“冷え”に焦点を当て、他の愁訴並びに皮膚表面温度からみた自律神経状態との関連性について検討を行った。その結果、“冷え”は更年期婦人だけでなく、各年齢層の婦人においても、2〜3割の者が訴えており、その大部分の者は不定愁訴、更年期指数、CMI (Cornell Medical Index) の点数が高いことから、自律神経機能が不安定であることが推測された。また、冷えの自覚と皮膚表面温度は必ずしも一致せず、正常皮膚温でも冷えを訴えたり、逆に低皮膚温でも冷えを感じない者も3割いることから、心因性の冷覚障害や、温度の感受性が不安定な者もいることが示唆された。

 

4. 皮膚表面温度から見た寝たきり老人の褥瘡の病態及び予防に関する研究(河野, 照屋)

 以前、我々は寝たきり老人によく見られる合併症の一つである褥瘡をサーモグラフィによる皮膚表面温度から分析し、客観的観察法として優れていることを報告した。今回は、褥瘡の予防対策として、老人施設でよく行われている車椅子による坐位保持に焦点を当て、車椅子坐位保持による背部圧迫の状態を皮膚表面温度から検討した。その結果、圧迫の時間が2時間では1時間や30分に比べ、坐位前の背部皮膚温の回復状況が遅れ、それはとくに臀部や坐骨部において著明であり、痛みやしびれなどの自覚症状も時間が延長するに従って、増加していた。また、肉眼的には変化の見られない血行障害についても、サーモグラム上では体位変換20分後でも高温帯を示しており、虚血による反射性の血管拡張が客観的に観察できた。以上のことから、2時間を超える車椅子の坐位保持は、血流状態の点でも褥瘡の原因となる同一部位の圧迫につながり、身体的・精神的にも苦痛を生じさせることから、30分毎の除圧を行う必要性のあることを報告した。

 

 

B.研究業績

2.総説

S9601: 松本弘子, 金城牧子, 百瀬奈津代 (1996) 入院患児における自律神経状態. 平成8年度保健学科卒業研究論文集 69-72.

S9602: 金城牧子, 松本弘子, 百瀬奈津代 (1996) 顔面における皮膚表面温度とその左右差について 〜 一般住民を対象として 〜. 平成8年度保健学科卒業研究論文集 73-76.

 

S9603: 百瀬奈津代 , 金城牧子, 松本弘子 (1996) 手掌・足背における皮膚表面温度について 〜 一般住民を対象として 〜. 平成8年度保健学科卒業研究論文集 77-80.

 

S9604: 西田和子 (1996) 高齢者の残存歯への寄与要因に関する研究. 平成8年度保健学研究科修士論文 1-30.

 

S9605: 金城利香 (1996) 中高年女性における骨密度の変化とその関連因子. 平成8年度保健学研究科修士論文 1-30.

 

S9606: 渡辺恵美子 (1996) 産後における骨密度の変化とその関連因子. 平成8年度保健学研究科修士論文 1-21.

 

4. 報告

H9601: 金城利香, 渡辺恵美子, 照屋典子, 河野伸造, 池宮喜春 (1996) 中高年女性の骨密度の変化とその関連因子について. 第37回日本母性衛生学会学術集会抄録集 286.

 

H9602: 渡辺恵美子, 金城利香, 照屋典子, 飯田真子, 河野伸造, 池宮喜春 (1996) 授乳期における骨密度の変化とその関連因子について. 第37回日本母性衛生学会学術集会抄録集 252.