麻酔科学講座

 

A. 研究課題の概要

1.局所麻酔薬の薬物代謝

 「局所麻酔薬リドカインの肝における薬物代謝」をテーマとする研究が進められている。薬物およびその代謝産物の定量分析は、高速液体クロマトグラフを用いて行っている。

「幼若期のラット肝ミクロソームにおけるリドカイン代謝の加齢による変化」と「ラット肝ミクロソームにおけるリドカイン代謝に及ぼす各種バルビツレイト前処置の影響」については、すでに大学院生島袋勉と垣花学の学位論文として発表され、これを主論文として学位が授与されている。

 さらに、モルヒネ、フェンタニールの血液中濃度定量法を確立して「麻薬と痛覚」の領域へ研究をすすめるべく企画し、モルヒネについてはすでに実験に着手した。

 

2.薬物の蛋白結合s

 「局所麻酔薬リドカインの蛋白結合」の研究が、ゲル濾過法を用いて行われている。この方法は、従来この分野で広く用いられて来た限外濾過法あるいは平衡透析法と異なり、pHと温度の変化がどのように蛋白結合に影響するかを、定量的に厳密に計測できる。そのために、得られたデータを用いて、リドカインとアルブミンの結合状態を熱力学的に解析することが可能となった。この成果は、すでに雑誌「麻酔」に掲載され学位論文として発表されている。

 さらに、この方法を用いて、リドカインとα1-アシドグリコプロテインとの結合状態の解析が進められている。この結果に基づいて、α1-アシドグリコプロテインとの結合状態は、アルブミンとの結合とはまったく様相を異にすることが、熱力学的解析から証明されている。

 

3.一過性大動脈遮断後の虚血性脊髄障害の発生メカニズムに関する研究(平良豊、垣花脩、垣花学、島袋泰、渕上竜也)

【実験モデル】

 我々は、ラットの大動脈をフォガティーカテーテルを用いて遮断する独自の脊髄虚血モデルを開発した。このモデルでは、10分間の大動脈遮断で両下肢の完全麻痺が生じる。

【くも膜下カテーテル埋め込み】

 ラットの大槽膜から腰髄膨大部近傍のくも膜下腔にカテーテルを挿入し、カテーテルの他端を頭頂部の皮下から体外に出して、慢性的くも膜下カテーテル埋め込みモデルの手技を確立している。この方法によって、自由に行動している動物に対しても、非侵襲的に、薬物をくも膜下腔に投与できるようになった。

【脊髄マイクロダイアリーシス法】

 ラットの大槽膜から腰髄膨大部近傍のくも膜下腔に自作のマイクロダイアリーシスカテーテルを挿入し、カテーテルの他端を頭頂部の皮下から体外に出して、慢性的マイクロダイアリーシスカテーテル埋め込みモデルの手技を確立している。この方法によって、自由に行動している動物に対しても、非侵襲的に、脊髄くも膜下腔に放出される物質の測定ができるようになった。

【興奮性アミノ酸の定量分析】

 高速液体クロマトグラフによる興奮性アミノ酸(グルタミン酸、アスパラギン酸)の定量分析が確立している。

以上の実験法を組み合わせて、NMDA receptor antagonist、NOS inhibitor、アデノシン再取り込み抑制薬、ラジカルスカベンジャーを投与した際の、脊髄虚血後の下肢運動機能を観察し、さらに虚血中に脊髄から放出されるグルタミン酸の定量分析を行っている。これらの研究から、虚血後に起こる脊髄神経細胞死の成因におけるNMDAレセプター、アデノシンレセプター、一酸化窒素、活性酸素の役割が明らかにされることが期待される。

 

4.脊髄における痛覚過敏の成因に関する研究(垣花脩、平良豊、笹良剛史)

 侵害刺激が脊髄に入力すると、脊髄後角細胞の興奮性が高まることが知られている(Central sensitization)。このCentral sensitizationにおけるNMDAレセプターの役割を明らかにするために、NMDAの脊髄くも膜下腔投与による痛覚過敏モデル作成の研究を行っている。

 

5.中枢神経系障害とFree Radicals(湯佐祚子)

 Hyperoxia, anoxia, ischemia による中枢神経系障害に関与する因子としてfree radicalsの関与を研究の課題としている。

 一過性脳虚血モデルとして急速減圧時に発生する気泡による脳障害を検討し、血液脳関門の破綻、微小循環障害及び神経細胞の変化の可逆性とmaturation phenomenonについて報告すると共に、平成6ー7年度科学研究費補助金による研究テーマ「急速減圧時発生気泡による脳障害と高気圧酸素の影響」の研究成果報告書としてまとめた。

 平成8年度よりの科学研究費補助金による研究課題「脳虚血ー再潅流時のフリーラジカル発生及び神経伝達物質遊離と高気圧酸素の影響」の検討として前脳虚血ー再潅流モデルでglutamate遊離と活性酸素発生の指標としてH2O2の発生をin vivo, insituで脳血流量と共に連続測定する方法を確立し、脊髄虚血モデルでの応用を検討している。

 Hyperoxiaによる脳障害は高気圧酸素下で発生する中枢性酸素中毒モデルで検討し、活性酸素発生増加が関与することは既に報告したが、NOの関与の可能性とsuperoxideとNOの相互作用の可能性の検討を進めている。

 

6.海外における活動

カリフォルニア大学サンディエゴ校に1年間留学している垣花学は、ラットの脊髄虚血後神経障害に対する体温の影響を中心とした研究に取り組んでいる。また脊髄虚血後の神経障害をモルヒネが増悪させることも発見している。今後この研究分野への貢献が期待される。

 

 

B. 研究業績

1.原著

G96001: 寺田泰蔵, 平良豊, 湯佐祚子, 比嘉政人, 伊波寛, 奥田佳朗 (1996) 座位胸部硬膜外ブロックにより空気塞栓を起こした1例. pain Clinic 17 720-724.

 

G96002: 徳嶺譲芳, 伊波寛, 奥田佳朗 (1996) 大腿骨人工骨頭置換術における区域麻酔と全身麻酔併用区域麻酔の比較. 沖縄医会誌 35 45-48.

 

G96003: 上原真人, 徳嶺譲芳, 具志堅興治, 伊波寛, 奥田佳朗 (1996) 『低流量リ-クテスト』による始業点検フロ-チャ-ト. 沖縄医会誌 35 49-51.

 

G96004: 具志堅興治, 徳嶺譲芳, 上原真人, 新田憲市, 伊波寛 (1996) 麻酔器内部回路の低流量リーク. 医器学 67 40-41.

 

G96005: 垣花脩, 島尻隆夫, 伊波寛, 奥田佳朗 (1996) HPLCによるプロポホールの血中濃度測定法について. 日麻酔・薬理学会誌 9 148-149.

 

G96006: Taira Y, Marsala M (1996) Effect of Proximal Arterial Perfusion Pressure on Function,Spinal Cord Blood Flow,and Histopathologic Changes after Increasing Intervals of Aortic Occlusion in the Rat. Stroke 27 1850-1858.

 

2.総説

S96001: 奥田佳朗, 徳嶺譲芳, 伊波寛 (1996) 加齢による生理的変化-神経-特集『老人麻酔』. ANESTHESIA TODAY 5 2-17.

 

3.著書

T96001: 伊波寛, 奥田佳朗 (1996).吸入麻酔. 釘宮豊城, 高橋成輔, 土肥修司, 図説最新麻酔科学シリ-ズ1「麻酔の薬理と手技の実際」, メジカルビュー社, 東京, 163-171.

 

T96002: 湯佐祚子 (1996) 脊椎手術の麻酔での一般的注意点. 花岡一雄, 臨床麻酔のコツと落し穴 Part II, 中山書店, 東京, 178-179.

 

T96003: 湯佐祚子 (1996) 口唇裂, 口蓋裂手術の麻酔. 花岡一雄, 臨床麻酔のコツと落し穴 Part II, 中山書店, 東京, 213.

 

4.報告

H96001: 湯佐祚子 (1996) 前脳虚血-再灌流の脳血流量及びglutamate遊離に及ぼす影響とnitric oxideの関与について. J Anesth 10 521.

 

H96002: 野原敦, 湯佐祚子 (1996) 中枢性酸素中毒に及ぼす活性酸素とNitric Oxideの影響 日高圧医誌 31 33.

 

H96003: 井上治, 半澤浩明, 六角高祥, 我謝猛次, 茨木邦夫, 湯佐祚子 (1995) 長期・間歇的高気圧酸素暴露が成長期ビーグル犬の血液性状や免疫能に及ぼす効果. 日高圧医誌 31 34.

 

H96004: 湯佐祚子 (1996) シンポジウムII"高気圧酸素療法の患者管理技術と安全" I.重症患者管理(第2種). 日高圧医誌 31 21.

 

H96005: 上運天均, 小笠原隆行, 徳嶺譲芳, 大見謝克夫, 伊波寛, 湯佐祚子, 奥田佳朗 (1996) 頚動脈血行再建術において脳血流の判定にTranscranial Dopplerが有用だった一症例. 日臨麻誌 16 S290.

 

H96006: 渕辺誠, 湯佐祚子, 渕上竜也, 富村賢志 (1996) 貯血式自己血輸血症例の検討. 日臨麻誌 16 S253.

 

H96007: 島尻隆夫, 富村賢志, 伊波寛, 奥田佳朗 (1996) 肺ヘモジデローシスを生じた歌舞伎メーキャプ症候群の一症例. 日集中医誌 13 S133.

 

H95008: 太田敏久, 伊波寛, 奥田佳朗 (1996) 全身麻酔下での経鼻的気管支ファイバースコープ挿管における気管内チューブの適切な挿入位置. J Anesth 10 S495.

 

H96009: 徳嶺譲芳, 伊波寛, 高良到, 宮田裕史, 濱田哲, 奥田佳朗 (1996) 局所麻酔下耳内手術におけるPatient-controlled Sedationの試み. 日臨麻誌 16 S155.

 

H96010: Taira Y, Marsala M, Yaksh TL (1995) Transient Spinal Cord Ischemia in Rat:Effect of systemic BLOOD PRESSURE on the spinal cord blood flow,SENSORY AND MOTOR FUNCTION and histopathological changes. American Pain Society 14th Annual Scientific Meeing Program Book A113.

 

H96011: 笹良剛史, 比嘉康敏, 平良豊, 奥田佳朗 (1996) 重症帯状疱疹後神経痛に対し交感神経ブロック・ケタミン持続投与などを行い除痛し得た症例. 日本ぺインクリニック学会誌 l3 183.

H96012: 笹良剛史, 比嘉康敏, 川島正章, 奥田佳朗 (1996) 旧肛門部痛及び異常感覚に対する上下腹神経叢ブロックの経験. 沖縄医会誌 35 71.

 

5.その他

M96001: Yusa T (1996) Effects of ischemia-reperfusion and nitric oxide synthase (NOS) inhibition on cerebral blood flow (CBF) and glutamate release. 11th Word Congress of Anaesthesiologists, Sydney, Australia April 14-20.

 

M96002: 湯佐祚子 (1996) 急速減圧時発生気泡による脳障害と高気圧酸素の影響. 平成6-平成7年度科学研究費補助金(一般研究C)研究成果報告書.

 

M96003: 伊波寛 (1996) イギリス麻酔科印象記. いずみ 11 20-21.

 

M96004: 島袋泰, 寺田泰蔵, 宮田裕史, 大見謝克夫, 伊波寛, 奥田佳朗 (1995) 小児気管形成術の麻酔経験. 臨床麻酔 20 273-274.

 

M96005: 宮田裕史, 中原巌, 伊波寛, 奥田佳朗 (1996) 脊椎麻酔下亜酸化窒素による腹腔鏡検査中に意識障害を起こした1症例. 臨床麻酔 20 1385-1386.

 

M96006: 寺田泰蔵, 平良豊, 湯佐祚子, 比嘉政人, 伊波寛, 奥田佳朗 (1996) 座位の胸部硬膜外ブロックにより空気塞栓を起こした1例. ペインクリニック 17 720-724.

 

M96007: 奥田佳朗, 伊波寛, 濱田哲 (1996) 琉大病院手術部の清潔管理の概要. Ryukyu Med J 16 91-92.

 

M96008: 加治佐淳一, 小笠原隆行, 徳嶺譲芳, 富村賢志, 濱田哲, 伊波寛, 奥田佳朗 (1996) 重症筋無力症におけるラリンジアルマスクの応用. 沖縄医会誌 35 52-53.

 

M96009: 徳嶺譲芳, 伊波寛, 奥田佳朗 (1996) 小児の全身麻酔下眼科検査におけるラリンジアルマスクの応用. Ryukyu Med J 16 139-141.