解剖学第一講座

 

A.研究課題の概要

 

1.胚子・胎児の脳の血管構築の形成過程の解析(平田幸男)

その障害が、知能発達の遅れ、老年痴呆など重大な結果を生ずるところのヒトの脳の血が、発生の過程でどのように出来てくるのかは、実は、まだ良く判っていない。その理由の一つは、脳の血管の形や、分布の仕方などが、動物の種が違うと、大変様子が違うことが知られていて、動物での観察が、簡単にヒトに当てはめることが出来ないこと、従ってヒトの発達過程の標本を直接解析する必要があるのだが、血管の観察に適した標本を入手することが難しいという事情があるからである。担当者は、これまで、解剖を行ってきたヒト胚子・胎児の保存されていた連続切片にGallyas鍍銀法を施すことによって、色々な発達段階のヒト脳の血管を系統的に観察できる目途がついた。例えば、脳の白質の血管の、ヒトに特徴的な発達の有様(著しい発生勾配の存在、皮質に比べ豊富なそして層を形成する白質の血管網工など)を明らかにすることが出来、一部を報告した。

(Brain Medical 1997年3月号)

 

 

2.脳の発達をMRIと組織像で比較する(平田幸男)

 母親のお腹にいる子どもの脳がどのように出来上がっていくのかは、最近は、超音波やMRIによって、母子にほとんど影響を与えることなくある程度観察することが可能になった。しかし、このような画像で見るヒトの脳の発達が、実際に脳の組織や、細胞のレベルで、どのような発達・発生過程と対応しているかは、あまり調べる機会がないため、良く判っていない。そこで、担当者らは、自然にまたは人工的に流産した胎児の、もしくは、不幸にも事故死した乳幼児の脳をMRIで観察し、その後、その脳を組織学的に観察することによって、画像所見と、実際の脳の組織の発達過程との直接の対応を探っている。特に、妊娠晩期から新生児期にかけての脳の発達の大事な指標の一つである脳の神経繊維の有髄化の程度を組織のレベルで容易に、敏感に判定できる偏光観察法を応用して解析を進めている。

 

 

3.南西諸島人骨格の形質人類学的研究(土肥直美,平田幸男,瑞慶覧朝盛,泉水奏)

 現在特徴を知ることのできる最古の南西諸島人であり、最古の日本列島人でもある港川人は、日本列島の基層集団である縄文人の直接の祖先と位置づけられている。また、現在の南西諸島人は大陸からの遺伝的影響をほとんど受けなかったので、北海道のアイヌとともに縄文人の形質を色濃く受け継いでいると考えられている。しかし、我々が進めている最近の調査・分析では、南西諸島人とアイヌは必ずしも近縁とはいえないということが分かってきた。すなわち、頭蓋計測値をアイヌや本土日本人のそれと比較してみると、三者は共通の特徴を持ってはいるが、一方で、互いに強い独自性を示すことが分かってきた。南西諸島人の成立過程はそれ程単純なものではなかったようである。南西諸島人の起源および成立過程を解明するために、沖縄県を中心に出土人骨の調査・研究を進めている。

 

 

4.鶏胚中期の骨盤部における末梢神経および血管の発生(瑞慶覧朝盛)

 鶏胚における発生学的研究は、約1世紀にわたり多くの研究者によってなされている。しかし、末梢神経や血管の発生は、初期において為されているのがほとんどであり、研究対象部位は頭部や体肢が多い。骨盤部における末梢神経の発生学的研究が為されにくい理由のひとつは、その初期発生の複雑さにある。発生において脊椎動物はすべからく吻側から尾側方へ発生の勾配が存在する。これまでの検索から、鶏胚中期(3、5〜11日)は、骨盤部において神経および血管が本格的な形成をはじめ、生理的機能を獲得する時期である可能性が形態学的検索からわかってきた。けれども、鶏胚中期の骨盤部における末梢神経および血管形成過程の詳細な記載はない。よって、経時的に末梢神経と血管の形成過程と神経伝達物質の出現時期を明らかにしていきたい。

 

 

5.両生類中枢神経系おける髄鞘形成の研究(泉水奏) 

 髄鞘は神経の機能にとって重要な働きをしており。またヒトを含め多くの動物で発生の進行につれて有髄線維が増加してくることが知られている。現在、無尾両生類(アフリカツメガエル)の発生過程での中枢神経における髄鞘形成を以下の方法により研究している。樹脂包埋切片でのトルイジンブルー染色、髄鞘特異的ミエリン塩基性蛋白質に対する抗体を用いた免疫組織化学、凍結切片での偏光顕微鏡観察、これらの観察から最も早く髄鞘形成を始めるのはstage45-46の幼生であり、延髄から脊髄にかけ腹側を縦走するMauthner細胞の軸索と、その周囲の神経線維に延髄から脊髄吻側において有髄線維が観察される。その後、発生の進行に伴い有髄線維の数は増加し、脊髄側索および脊髄後索に、そして、より尾側にも有髄線維が見られるようになることが分かった。今後、マーカー抗体を用い、髄鞘形成細胞の出現時期、出現部位を検索してゆく予定である。

 

 

B.研究業績

1.原著

G961: Yamashita J, Hayashi S, Hirata Y, Miyajima M (1996) Possible role of the submandibular gland in the development of obesity in mice. Biochem Environm Sci 9 191-8.

 

G962: Sensui N, Morisawa M (1996) Effect of Ca2+ on deformation, polar body extrusion and pronucleus formation in the egg of the ascidian, Ciona savignyi. Develop Growth Differ 38 341-350.

 

3.著書

T961: 土肥直美 (1996) 人間の骨格案内. 片山一道, 編「人間史をたどる」, 朝倉書店, 東京, 189-207.

 

4.報告

H961: Nohara A, Hirata Y (1996) Polarization microscopic observation of the developing human brain and spinal cord. Acta Anat Nippon 71 60.

 

H962: Sensui N., Hirata Y. (1996) Myelilnation in the central nervous system of developing Xenopus larvae as observed by immunohistochemistry and polarization microscopy. Acta Anat Nippon 71 478.

 

H963: Doi N, Hirata Y, Zukeran C, Sensui N (1996) Human skeletal remains of early modern period from the Ayafune burial site, Miyakojima Island. Acta Anat Nippon 71 376