外科学第二講座

 

A 研究課題の概要

1. ACバイパスグラフトの拍動性流速分布特性の解明に関する研究(宮城和史)

 冠動脈バイパス術時に用いられる動脈グラフト(両側内胸動脈、右胃大網動脈、下腹壁動脈)の組織学的構造の検討を行い、患者背景因子(年令、性別、糖尿病、高脂血症の有無など)による構造の変化を解析する。患者背景因子のこれら動脈グラフトに与える影響は、各動脈間で異なっている事が予想され、動脈グラフトの使用上の適応を明らかにする。研究続行中。

 

2.動脈血行再建術後の晩期閉塞の病態と制御機序の解明に関する実験的研究

1)移植静脈片内膜肥厚部における、細胞成分、コラーゲン成分の局在、分布の相違(玉木正人)

 自家移植片内膜肥厚の程度は細胞成分よりもコラーゲン量により決定される。移植静脈片内膜肥厚部の表層、中間層、深層の各層における細胞成分、コラーゲン成分の局在、分布の違いを明らかにした。移植片の内膜肥厚の程度は移植後3,6,13ヶ月と異常血流下では経時的に進行し、表層、中間層と比較し深層においてI, III, IV, V型の各コラーゲンはともに有意に濃染され、さらに各コラーゲン間の深層における比率はI, III型と比べIV, V型が有為に高かった。正常血流群ではこの現象は起こらなかった。このことは1年以上にわたり異常血流環境下の移植静脈片では、何らかの刺激が持続し、内膜肥厚部深層において、myofibroblastsまたは新生血管内皮細胞の各コラーゲン、とくにIV, V型コラーゲンの合成分泌が亢進することにより経時的に内膜肥厚が進行するものと考えられた。

 

2)壁面剪断力を調整した血管内皮細胞培養系における内皮細胞直下のコラーゲンの分布(鎌田義彦)

ステッピングモーターならびにパルスモータコントロール装置を用いて角速度を自由に制御できる回転円盤装置を作成し、この上に犬血管内皮細胞を飽和状態にまで培養したガラスシャーレを載せ、種々の壁面剪断力をシミュレートする回転を加えて培養を続け、内皮細胞下に産生される細胞外マトリックス物質の産生状況ならびに分布を検索した。壁面剪断力の変化を60 cycle/minとし、測定地点の最大剪断力が約4 dyn/cm2となるcycleで実験したところ、I型コラーゲンでは剪断力の小さい所で、IV型コラーゲンでは 剪断力の大きい所でより多くのコラーゲンが産生されていた。研究続行中。

 

3)平滑筋細胞、内皮細胞の増殖因子ならびに制御因子の解明(佐久田斉、松原忍)

 移植静脈片の仮性内膜肥厚は血管平滑筋細胞の異常増生であることが判明している。これを制御するため、イヌ血管平滑筋細胞を分離培養し、その細胞増殖を抑制する薬剤を検索している。ステロイド、ヘパリンなどの有効性が確認されており、投与期間や投与日数などについても検討している。研究続行中。

 

4)吸収性血管縫合糸の血管吻合部内膜肥厚に及ぼす影響(玉城守)

 臨床の場において閉塞性動脈硬化症での血行再建術後は、吻合部内膜肥厚による晩期閉塞が問題となっている。血行再建における血管吻合部では、縫合糸周囲の組織間隙を介して線維芽細胞様細胞が浸潤し、また、内腔由来vasa vasorum が形成されて吻合部内膜の著しい肥厚が起こり、晩期閉塞の原因となる。吸収性縫合糸を用いて血管吻合を行った場合、縫合糸が吸収されるため縫合糸周囲の組織間隙が吻合後早期に消失し、線維芽細胞様細胞の浸潤が少なくなり、組織反応が少ないと考えられた。縫合糸は移植後3カ月目には完全に消失し、吻合部内膜肥厚は、非吸収性縫合糸を用いた吻合部に比して軽微である所見が得られた。吸収糸を用いた吻合部について組織学的、電顕的検討及び、マイクロフィル注入によるvasa vasorum の観察により吻合部内膜肥厚の病態について検討する。研究続行中。

 

3. 体外循環下での諸臓器の血行動態および病態の解明と制御に関する実験的研究

1) 上下2方向分離送血法における血行動態に関する研究(古謝景春、下地光好)

 弓部大動脈瘤の手術においては、逆行性送血における脳塞栓子の飛散、解離性大動脈瘤における偽腔灌流の問題があり、順行性送血が重要視され、上下2方向分離送血法が用いられている。しかしながら2方向送血時の血行動態は明らかではない。そこで動物実験で同モデルを作成し、主要臓器の血行動態が冷却加温過程で如何に変動するか調べ、至適灌流の検討を行う。研究続行中。

 

2)上行大動脈瘤グラフト置換手術時のApico-aortic cannulationによる循環動態に関する研究(国吉幸男)

 上行大動脈瘤に対するグラフト置換術時の問題点の1つに体外循環導入時の適切な動脈送血部位の確保である。急性A型解離性大動脈瘤において送血用の末梢動脈の確保が困難な症例や、腸骨動脈瘤領域のASO症例でその使用が困難な症例も少なくない。左心室心尖部より上行大動脈へ cannulation して送血する、Apico-aortic cannulation は上記症例においては極めて有用な送血法であるが本法使用による循環動態に関する研究はまだない。(研究目的)本法導入による循環動態を解明する。(方法)成犬を用いてApico-aortic cannulation による体外循環を作製する。本法が大動脈弁機能、左心室機能に及ぼす影響を経食道心臓超音波装置を用いて、通常の上行大動脈送血との比較において定量的に比較検討する。また、挿入部位である心尖部損傷の左心機能に及ぼす影響を明らかにする。研究続行中。

 

3)胸部大動脈手術時の末梢血管抵抗及び腎動脈血流量に関する実験的、臨床的研究(赤崎満)

 胸部大動脈領域の手術の補助手段として部分体外循環法を用いた際の、大動脈遮断の中枢側と末梢側の各々の血管抵抗の変化と腎血流量について、実験モデル及び臨床例において検討し、適正灌流量の指標を求めた。実験モデルでは雑種成犬10頭を用い、バイパス流量を同一犬では遮断中一定となるよう調節し、各犬毎に15〜61 ml/kg/min と流量を変えた。流量40以上の群をA群(n=5)、それ以下をB群(n=5)とすると、遮断末梢側抵抗A群では殆ど変化しなかったのに対し、B群では遮断180分で約4倍となった。腎血流量もA群3.29、B群0.95 ml/kg/min と明かな有意差を認めた。これより、A群の流量(40〜60 ml/kg/min )は適正灌流量の指標になると考えた。臨床例10例(胸部、胸腹部大動脈瘤切除人工血管置換術)においても、バイパス流量は平均42.6 ml/kg/min で、体外循環中尿量は平均45 ml/h と良好であり、適正に体外循環が行われたものと思われた。研究続行中。

 

4)胸腹部大動脈瘤手術における腎血流遮断時の選択的灌流の至適条件に関する研究(古謝景春、久高学)

 胸腹部大動脈瘤術における問題点の一つは再建を要する主要分枝の血遮断による肝腎の臓器障害の合併である。この様な臨床例において我々は、術中に選択的臓器灌流を行うことにより虚血予防策を図っている。しかしその灌流量・灌流圧・灌流時間を含めた至適灌流条件に関しては未だ明確ではない。今回我々は腎臓に関して至適灌流条件を確立すべく実験を行っている。実験動物として雑種成犬(体重14〜22Kg)を用いている。実験犬の循環動態、全身状態を把握するためにECG、動脈圧、中心静脈圧、心拍出量、肺動脈喫入圧、尿量をモニターした。開腹後腎動脈の血流量を計測し、左大腿動脈より選択的に腎動脈にカニューレを留置した。右大腿動脈より脱血し、ポンプを用いて実験側腎動脈に2時間選択的灌を行った。選択的灌流量を正常腎血流量の10%、50%に規定し、2時間の灌流後、さらに2時間の再灌流を行い腎臓の viability の判定を行った。 viability の判定は腎組織のATP、無機燐、乳酸を計測し、また腎の組織学的検討も併せて行い、対側腎をコントロールとした。研究続行中。

 

 

B.研究業績

1.原著

G96001: Koja K, Kusaba A, Kuniyoshi Y, Iha K, Akasaki M, Miyagi K (1996) Radical open endvenectmy with autologous pericardial patch graft for correction of Budd-Chiari syndrome. Cardiovasc Surg 4(4) 500-504.

G96002: Kuda T, Genka K, Ishikawa K, Kuniyoshi M, Koja K, Kusaba A (1996) The role of surgery in the treatment of lung cancer in the octogenarian. Chest 110(4) 62S.

 

G96003: Shiroma H, Kusaba A (1996) Ultrastructural features of progressive intimal hyperplasia at the distal end-to-side anastomosis of vein grafts. Cardiovasc Surg 4(3) 393-398.

 

G96004: Hirayasu T, Iwamasa T, Kamada Y, Koyanagi Y, Usuda H, Genka K (1996) Human papillomavirus DNA in squamous cell carcinoma of the lung. Clin Pathol 49(10) 810-817.

 

G96005: 草場昭 (1996) 静脈弁形成術の手術手技と遠隔成績. 静脈学7(1) 71-73.

 

G96006: 草場昭 (1996) 下肢動脈血行再建術後の再閉塞の病態と制御. 脈管学36(3) 103-110.

 

G96007: 古謝景春, 草場昭 (199) 胸腹部大動脈瘤と術式の選択 とくに腹部分枝再建術の手術方式. 外科治療75(1)1-8.

 

G96008: 古謝景春, 草場昭 (1996) 肝部下大静脈閉塞に対する血行再建術. 手術50(6):933-940.

 

G96009: 古謝景春, 国吉幸男, 赤崎満, 宮城和史, 下地光好, 久高学, 上江洲徹, 草場昭, 他5名 (1996) 分節的大動脈遮断による肋間動脈および腰動脈再建法. 脈管学36(12):923-925.

 

G96010: 古謝景春 (1996) 心臓および胸部大動脈瘤手術における術後感染症発生例に関する検討. 琉球医会誌16(2) 97-100,

 

G96011: 国吉幸男, 古謝景春, 伊波潔, 赤崎満, 宮城和史, 下地光好, 久高学, 草場昭 (1996) 一期的Bentall手術兼上行-弓部-下行胸部大動脈人工血管置換手術症例の検討. 日胸外会誌44(1) 19-24.

 

G96012: 伊波潔, 山城聡, 新屋瑛一, 前田清貴, 堀川義文, 古謝景春 (1996) 外傷性胸部大動脈損傷の2手術治験例. 日血外会誌5(4) 611-614.

 

G96013: 宮城和史, 古謝景春, 国吉幸男, 赤崎満, 下地光好, 久高学, 上江洲徹, 佐久田斉, 鎌田義彦, 草場昭 (1996) 下大静脈-右心房バイパスグラフト閉塞後に直達再手術を施行したBudd-Chiari症候群の一治験例. 日心血外会誌25(5) 340-343.

 

G96014: 久貝忠男, 金城守人, 細川裕平 (199) 体外循環を使用した左房合併切除","胸部外科49(9) 737-741.

 

G96015: 久貝忠男, 金城守人 (1996) 血清CA19-9高値を呈したアスペルギルス感染肺葉外肺分画症の1治験例. 日胸外会誌44(4) 565-569.

 

G96016: 佐久田斉, 津波古京子, 岩政輝男 (1996) 生検, 手術症例からの組織培養. 検査と技術24(1) 29-33.

 

G96017: 佐久田斉, 草場昭, 鎌田義彦, 久田友治, 玉木正人, 砂川一哉, 玉城守, 平安恒男, 松原忍, 古謝景春 (1996) 腸骨静脈圧迫症候群に対する静脈再建術の術式および遠隔成績の検討. 静脈学7(9) 361-368.

 

G96018: 佐久田斉, 草場昭, 鎌田義彦, 久田友治, 玉木正人, 大田治, 砂川一哉, 玉城守, 松原忍, 古謝景春 (1996) 膝下病変に対する血行再建術の検討. 日血外会誌4(5) 29-35.

 

G96019: 上江洲徹, 坂田隆造, 植山浩二, 梅林雄介, 上野哲哉, 浦正史 (1996) 脳血管病変と開心術中脳障害発生との関わり. 日胸外会誌44(9) 1685-1690.

 

G96020: 上江洲徹, 古謝景春, 国吉幸男, 伊波潔, 赤崎満, 宮城和史, 下地光好, 久高学, 草場昭 (1996) 右大動脈弓に合併したDeBakey IIIa型解離性大動脈瘤破裂の1治験例. 日心血外会誌25(4) 275-278.

 

G96021: 佐久本昇, 久高弘志, 山城和也, 稲福行夫, 与儀実津夫 (1996) Adenoma of the nippleの1例. 日臨外医会誌57(3) 562-566.

 

G96022: 佐久本昇, 金城治, 伊集真 (1996) 術前診断しえた両側性閉鎖孔ヘルニアの1例. 日臨外医会誌57(4) 972-976.

 

2.総説

S96001: Iwamasa T, Chinen K, Hirayasu T, Nakazato I, Tsuhako K, Kamada Y, Miyamoto K. (1996) Epidemic and non-epidemic Kaposi's sarcoma: diagnosis, staging and treatment. Critical Reviews in Oncology/Hematology 24 153-163.

 

S96002: 古謝景春 (1996) 冠動脈病変を合併する大動脈瘤の外科治療. ハートナーシング116 39-47.

 

3.著書

T96001: 草場昭 (1996) 「切迫」壊疽 −救肢の臨床−.  へるす出版, 東京, 330pp.

 

T96002: 草場昭 (1996) 下腿末梢血行再建. Annual Review循環器(分担) 中外医学社, 東京, 265-269.

 

T96003: 草場昭 (1996) XII.末梢動脈・静脈疾患 静脈炎後症候群 深部静脈血栓症, 深部静脈血栓静脈炎 表在静脈血栓静脈炎. 日本臨床 領域別症候群シリーズ 循環器症候群 −その他の循環器疾患を含めて−, 日本臨床社,  東京, 502-505, 513-516, 545-546.

 

4.報告

H96001: 草場昭, 大嶺靖 (1996) 下肢動脈血行再建術の成否の術前予測指標の解析. 厚生省特定疾患難治性血管炎調査研究班1995年度研究報告 215-218.

 

5.その他

M96001: Kugai T, Nakamoto T, Tamaki N, Sunagawa T, Kinjo M, Nakama T, Fujimi S, Mabuni K (1996) Aneurysm of an artery of Buhler: An unusual case. J Vasc Surg 23(3) 537-538.

 

M96002: 草場昭 (1996) 突然の腹痛と吐・下血. 循環器科16(2) 62-64.

 

M96003: 古謝景春 (1996) 急性大動脈弓部解離の遠位部断端形成と吻合法. 胸部外科49(10) 837.