薬理学講座


A.研究課題の概要

 1. アドレナリン性β受容体遮断薬ボピンドロールとその代謝産物18-502の抗酸化作用
  (安仁屋洋子, 馮坤范, 内藤鑑, 坂梨又郎)
 ボピンドロールは新規のアドレナリン性β受容体遮断薬で高血圧症や狭心症の治療薬としての臨床応用が期待されている。 β受容体遮断薬のあるものは脂質の酸化を防止もしくは抑制することが知られており, これには膜安定化作用が関連しているのではないかと考えられている。 一方, 臓器や組織の虚血・再灌流では反応性に酸素系を発生させ, これが組織の損傷をひき起すとされている。 したがって, 抗酸化作用を持つ薬物には, 虚血性疾患治療において好成績を収めることが期待される。 本研究で用いたボピンドロール, ボピンドロールの代謝産物である18-502ならびにプロプラノロールは過酸化水素 (H2O2) による肝ミクロソームの脂質過酸化を強く抑制し, 50%抑制濃度はそれぞれ1.8オM, 10オMおよび2.3オMであった。 この傾向はラットの心臓のホモジネートでもみられた。 また, チトクロームP450を触媒とする肝ミクロソームの脂質過酸化も, そしてH2O2によるブタ冠動脈や心筋の脂質過酸化もボピンドロールにより抑制されたが, プロプラノロールは無効であった。 さらに, 安定なフリーラジカルである1,1-diphenyl-2-picrylhydrazylをボピンドロールと18-502は消去 (スカベンジ) させたが, プロプラノロールでは消去させなかった。 このようなことから, ボピンドロールはプロプラノロールよりも強い抗酸化作用を持ち, 虚血性心疾患の治療において好ましい効果を示すことが期待される。
 2. 糖尿病心臓における低流量灌流時の心機能不全
  (左心室ステフネス増加および心筋エネルギー代謝異常)に対する薬物の作用
   (樋口マキヱ, 宮城香奈子, 坂梨又郎)
 我々は, 実験糖尿病ラットの摘出灌流心臓を用い, 低流量灌流下の心機能不全を左心室拡張期ステフネスの増加 (心筋組織が硬くなり柔軟性が低下する状態) および心筋エネルギー代謝異常としてとらえ, 非糖尿病心臓と比較検討してきた。 そして, 糖尿病という基礎疾患がある場合, 心筋梗塞を起こさない程度の軽度の心筋虚血によっても, 容易に重い心機能不全がもたらされることを明らかにした。 即ち, (1) 糖尿病心臓の方が低灌流障害を受けやすく, その障害の程度は, 低灌流の程度や時間および 糖尿病の重症度に関連している。 (2) 低灌流下のノルエピネフリンは低灌流障害を悪化させるが, 再灌流障害を軽減させる。 これらは, 糖尿病心臓において顕著である。 (3) 摘出灌流心臓においても, 左心室外膜下層心筋より内膜下層心筋の方が虚血障害を受けやすい。 (4) 低灌流時のグルコース利用の制限が左心室ステフネス増加に関与しており, 糖尿病心臓に高濃度蓄積されたグリコーゲンは, 低灌流時に使用され, ステフネス増加の開始を遅らせることに寄与する。 (5) 以上の実験結果を基盤として, 糖尿病心臓の低灌流障害に対する各種薬物の作用とその機序を検討している。

B.研究業績

 1. 原著
G9501: Aniya Y, Fong KF, Naito A, Sakanashi M (1995) Antioxidative action of the new β-adrenoceptor antagonist bopindolol and its metabolite 18-502. Jpn J Pharmacol 68 323-329.
G9502: Higuchi M, Miyagi K, Nakasone J, Sakanashi M (1995) Role of high glycogen in underperfused diabetic rat hearts with added norepinephrine. J Cardiovasc Pharmacol 26 899-907.
 2. 著書
T9501: 樋口マキヱ, 坂梨又郎 (1995) ピルビン酸による低灌流糖尿病心臓のステフネス増加の改善 心筋代謝研究会編 「心筋の構造と代謝-1994」 六法出版社, 東京, 17 299-308.
 3. 報告
H9501: 樋口マキヱ, 宮城香奈子, 仲宗根淳子, 坂梨又郎 (1995) レブクロマカリム (K+ チャンネル開口薬) は低灌流糖尿病ラット心臓においてグリブリド(KATP チャンネル阻害薬)によるステフネス増加の促進を防止する. 第68回日本薬理学会年会, 名古屋, Jpn J Pharmacol 67 Suppl. I 123.
H9502: 糸嶺達, 松崎俊博, 大城進, 芳原準男, 坂梨又郎 (1995) ニプラジロールとその光学異性体のβ受容体遮断および血管弛緩効果の比較. 第68回日本薬理学会年会, 名古屋, Jpn J Pharmacol 67 Suppl. I 177.
H9503: 安仁屋洋子, 上原直子, 松崎俊博, 坂梨又郎 (1995) ニトログリセリンからのNO生成: システインの役割. 第68回日本薬理学会年会, 名古屋, Jpn J Pharmacol 67 Suppl. I 182.
H9504: 野口克彦, 尾尻義彦, 松崎俊博, 仲宗根淳子, 宇座美代子, 坂梨又郎 (1995) プロスタサイクリンのイヌ脾臓径と血液貯蔵能におよぼす影響. 第68回日本薬理学会年会, 名古屋, Jpn J Pharmacol 67 Suppl. I 274.
H9505: 外間惟夫, 亀谷浩昌, 大城進, 芳原準男, 坂梨又郎 (1995) ラットにおけるカルベジロールの血漿中動態と薬物相互作用の研究. 第115回日本薬学会年会医療薬学部会, 仙台, 日本薬学会第115年会講演要旨集 4 254.
H9506: 加藤孝之, 宮本吉昌, 雨谷栄, 樋口マキヱ, 坂梨又郎 (1995) プラゾシン類似硝酸化合物の心血管系に対する作用. 第92回日本薬理学会関東部会, 東京, 日薬理誌 106 81.
H9507: M. Higuchi, K. Miyagi, S. Kayo, M. Sakanashi (1995) Non-diabetic than diabetic hearts with glyburide are more vulnerable to hypoperfusion with norepinephrine. The XV World Congress of the International Society for Heart Research, Prague, J Mol Cell Cardiol 27 122.
H9508: M. Higuchi, K. Miyagi, M. Sakanashi (1995) Effects of K+ channel opener and/or hypoperfusion with norepinephrine on glyburide-treated diabetic hearts. "Cardiovascular Alterations in Diabetes Mellitus" Post-Congress Workshop of the XV World Congress of the International Society for Heart Research, Budapest, J Mol Cell Cardiol 27 424.
H9509: 加藤孝之, 雨谷栄, 野口克彦, 坂梨又郎 (1995) 麻酔開胸犬におけるジピリダモールとパパベリンの心血管作用の比較. 第93回日本薬理学会関東部会, 浜松, 日薬理誌 107 9.
H9510: 野口克彦, 松崎俊博, 尾尻義彦, 坂梨又郎 (1995) 血管拡張薬の脾臓径に対する作用: プロスタサイクリンの影響. 第36回日本脈管学会総会, 宜野湾, 脈管学 35 893.
H9511: 糸嶺達, 松崎俊博, 野口克彦, 仲宗根淳子, 宮城香奈子, 小山智之, 安仁屋洋子, 尾尻義彦, 加藤孝之, 芳原準男, 大城進, 樋口マキヱ, 坂梨又郎 (1995) 摘出ブタ冠動脈におけるNipradilol光学異性体の耐性発現の可能性について. 第48回日本薬理学会西南部会, 那覇, 日薬理誌 107 65.