ウイルス学講座


A.研究課題の概要

 1. キメラウイルスの作成とその生物学的性状の検討 (牧野芳大, 馬紹平)
 日本脳炎ウイルス(JEV)とデングウイルス(DEN)とは同じフラビウイルスに属し遺伝子構造も類似している。しかしJEVは神経細胞に親和性を持ち脳炎を起こすのに対し, DENは一過性の脳症を起こすことはあるが, 脳炎とはならない。DENは主に血液中の細胞 (単核球) に感染し, 発熱, 出血熱を起こす。このような宿主細胞の感受性の差にどのような遺伝子が関与しているのか未だ不明である。本研究の第1段階としてウイルス表面に存在するDEN外殻遺伝子をJEVの対応遺伝子と組換えたキメラウイルスを作成し, in vitroおよびin vivoでのウイルスの増殖の性状, 免疫学的反応性の変化について検討するべく研究を進めている。
 2. キメラウイルスを用いた日本脳炎ウイルス弱毒化の解析 (新垣榮, 牧野芳大)
 JEVの野性株とそのウイルスを自然宿主とは異なる動物由来の細胞での培養を繰り返して作られた弱毒ワクチン株がある。この2つの株間の全塩基配列を比較して見ると, 弱毒株ではウイルスの構造蛋白遺伝子 (Pre-M)領域と非構造蛋白質 (NS4b, NS5前半)領域に遺伝子上の変異が集中して見られる。我々は構造蛋白質領域の変異がウイルスの弱毒化に関係するのではないかと考え, この領域を各々DENの該当領域に組換えたキメラウイルスを作成しその生物学的性状の比較を行い弱毒化の機構について解析すべく研究を進めている。
 3. ラオスにおけるフラビウイルス感染症の疫学
   (斉藤美加, 加根村和美, 馬紹平, 牧野芳大, 福永利彦)
 東南アジアではデングウイルス感染症が公衆衛生上重要な問題であり, 重篤度の増大, 農村部への範囲の拡大, 患者数の増大が近年の特徴となっている。ラオスにおいても1994年, 1995年続けてデング熱の大きな流行があった。1994年首都ヴィエンチャンではデングウイルス45株, 血清型全てが分離された。重篤度の異なる患者から分離された
 4株のデング2型ウイルスのE/NS1 領域の塩基配列は100%一致しており, メコン川沿いのタイ東北部の株に最も近かった。また, ヴィエンチャンのと殺豚より2株の日本脳炎ウイルスが分離され, カンボジアから北部タイにかけて分布する遺伝子型に属することが明らかになった。実状を踏まえたラオス国での予防対策をとる必要性が示唆された。
 4. 沖縄で分離された日本脳炎ウイルスの分子疫学 (馬紹平, 新垣榮, 牧野芳大, 福永利彦)
 沖縄本島での日本脳炎ウイルスの存在様式を知るために, 1968年から1992年までに沖縄本島で分離された年代の異なる日本脳炎ウイルスから延べ23株の構造蛋白遺伝子C-preM,E領域の一部の塩基配列を決定した。
 その結果沖縄分離株は全体として良く相同性が保持されていたが, 1980年頃を境に2つの群に分かれた。沖縄本島ではウイルスは土着していて, 現在分離されるウイルスの遺伝子は多様であることが分かった。
 また沖縄株と沖縄の周辺地域で分離された株をC-preM領域で比較すると, 沖縄株は地理的に近い台湾, 中国の株よりは寧ろ北海道, 大阪等の本土で分離された株に近いことが明らかになった。更にE領域について他地域の株と比較を行っている。
 5. 遺伝子治療の基礎的研究(牧野芳大, 脳神経外科学教室: 宮城航一)
 レトロウイルス由来のプラスミドベクターをもちいて悪性神経膠腫細胞に目的遺伝子 (Suicide Gene) を導入し治療する基礎研究を行っている。 とくにBy stander cell killingについて検討し発表した。 遺伝子治療の基礎的研究は平成6, 7年度の科学研究費の課題である。
 6. 癌遺伝子、癌抑制遺伝子の研究(牧野芳大, 脳神経外科学教室: 宮城航一他)
 悪性神経膠腫のEGF receptorの発現をWestern blottingを行い増殖能と対応させた研究をしている。

B.研究業績

 1. 原著
G95001: Vongxay P, Makino Y, Kanemura K, Saito M, Fukunaga T (1995) Seroepidemiological study of arbovirus infections in Khammouane Province, Lao PDR. Ryukyu Med J 15 19-22.
G95002: Sisouk T, Kanemura K, Saito M, Phommasack B, Makino Y, Arakaki S, Ma S-P, Insisiengmay S, Fukunaga T (1995) Virological study on dengue epidemic in Vientiane Municipality, Lao PDR, 1994. Jpn J Trop Med Hyg 23 121-125.
G95003: 宮城航一, 六川二郎, 銘苅晋, 古閑比佐志, 福永利彦, 牧野芳大, 新垣榮, 只野昌之, 馬紹平, 赤城剛 (1995) 悪性脳腫瘍に対する遺伝子治療の基礎的研究 -とくにbystander cell killingについて-. 神経免疫研究 7 80-86.
G95004: 白石祐之, 草野敏臣, 廣安俊吾, 原淳二, 馬紹平, 武藤良弘 (1995) ラット肝移植片急性拒絶反応におけるinterleukin 7 の変動. 今日の移植 8 193-197.
 3. 著書
T95001: 福永利彦 (1995) ラブドウイルス科 東匡伸, 小熊恵二編 「シンプル微生物学第2版」 南江堂 東京 279-281.
T95002: 福永利彦 (1995) フラビウイルス科 東匡伸, 小熊恵二編 「シンプル微生物学第2版」 南江堂 東京 281-283.
 4. 報告
H95001: 五十嵐 章, 森田公一, 長谷部 太, 牧野芳大, 森川 茂 (1995) フラビウイルス非構造タンパク質NS3の生物活性. 長崎大学熱帯医学研究所共同研究報告書 平成6年度 47-51.
H95002: 斉藤美加, 他13名 (1995) ラオス国ヴィエンチャンにおける1994年のデング熱の流行状況. 長崎大学熱帯医学研究所共同研究報告書 平成6年度 176.
H95003: Sisouk T, Kanemura K, Saito M, Phommasack B, Makino Y, Arakaki S, Fukunaga T, Insisiengmay S (1995) Virological study of dengue epidemic in Vientiane, Lao P.D.R. in 1994. Jap J Trop Med Hyg 23 152.
 H95004: Saito M et al. (1995) DF/DHF Epidemics and Control in Vientiane Municipality, Lao P.D.R. in 1994. Jap J Trop Med Hyg 23 152.
H95005: 福永利彦 (1995) 発現日本脳炎ウイルスE蛋白の血清学的交叉反応性. 全国乳酸菌研究会, 乳酸菌研究会に関する報告書, 平成6年度, 516-517.
H95006: 斉藤美加, 他13名 (1995) ラオス国ヴィエンチャンにおける日本脳炎の疫学的研究. 第30回日本脳炎ウイルス生態学研究会抄録 札幌 44-45.
H95007: Saito M et al. (1995) An epidemic of dengue fever and dengue hemorrhagic fever in Vientiane Municipality, Lao P.D.R. in 1994. The Japan-United States cooperative medical science program, Santa Fe, Abst 17.
H95008: 馬紹平, 新垣榮, 牧野芳大, 加根村和美, 斉藤美加, 福永利彦 (1995) 沖縄本島で分離された日本脳炎ウイルスの遺伝子解析. 日本ウイルス学会第43回総会抄録, 岡山, 252.
H95009: 斉藤美加, 牧野芳大, 加根村和美, 新垣榮, 馬紹平, 福永利彦 (1995) ラオス国ヴィエンチャンにおける1994年のデング流行の疫学的研究. 日本ウイルス学会第43回総会抄録, 岡山, 254.
H95010: 斉藤美加, 他13名 (1995) ラオス国ヴィエンチャンにおける日本脳炎の血清疫学およびウイルス学的研究. 日本熱帯医学会雑誌 第37回日本熱帯医学会総会抄録 96.
H95011: 馬紹平, 新垣榮, 牧野芳大, 福永利彦 (1995) 沖縄で分離された日本脳炎ウイルス遺伝子の経時的変化. 第13回琉球大学バイオテクノロジー研究会, 3.
H95012: 宮城航一, 六川二郎, 銘苅晋, 古閑比佐志, 福永利彦, 牧野芳大, 新垣榮, 馬紹平 (1995) Suicide gene therapyのbystander effectにおけるgap-junctional intercellular communicationの役割. 第8回沖縄県腫瘍治療懇話会.
H95013: 宮城航一, 六川二郎, 銘苅晋, 古閑比佐志, 比嘉靖, 福永利彦, 牧野芳大, 新垣榮, 馬紹平 (1995) Suicide gene therapyのbystander effectにおけるgap-junctional intercellular communicationの役割. 第2回脳腫瘍遺伝子治療懇話会, 佐賀県武雄市.
H95014: 宮城航一, 六川二郎, 銘苅晋, 福永利彦, 牧野芳大, 新垣榮, 只野昌之, 馬紹平, 赤城剛, 上田房雄 (1995) 悪性グリオーマに対する遺伝子治療の基礎的研究-Bystander effectにおけるギャップ結合作用物質の検討- 第54回日本脳神経外科学会総会, 名古屋.