小児科学講座


A.研究課題の概要

 1. 思春期心身症等の早期発見のためのスクリーニング法の研究 (平山清武, 識名節子, 劉宜玲)
 思春期心身症等の発症要因の解明と発症予防のため, 小学校高学年, 中学生, 高校生を対象に「心身の不適応徴候のスクリーニング」の確立を目的として, 沖縄県内の学校等で試行を重ね, 学校現場において生徒の不適応状態の把握に活用してきた。1995年は, 中学校11校, 小学校1校の計約5,000名を対象に, 学校や家庭に対する意識を外的基準としたとき, 身体症状と悩みのどの項目が, 学校や家庭を楽しくないとする意識と関連が深いかを, 岡山県環境保健センターの森忠繁との共同研究で数量化II類を用いて検討した。
 厚生省心身障害研究「親子のこころの諸問題」に関する研究班の「小児心身症に関する研究班」の分担研究「学校での小児心身症の早期発見に関する研究」を報告した。 その内容は, (1) 1994年度に保健室頻回来室者の実態を把握するために養護教諭と本人に行った調査の追跡, (2) 中学校の教諭と連携を図ることによる心身症予備群のスクリーニングの活用について, (3) 自覚症状からみた中学生の過敏性腸症候群について検討した。
 また, 台湾における中学生の心身症についての研究を開始した。
 1996年も引き続き上記の研究目的で調査検討をすすめてゆく予定である。
 また, 保健学科大学院生 (天願優子) の修士論文「思春期の学校や家庭に対する意識と身体症状や悩みに関する研究−数量化II類を用いての検討−」に対し研究指導を行なった。
 2. 遺伝性疾患診断補助用データベース開発に関する研究 (成富研二)
 1995年に改定公開した 遺伝性疾患診断補助用データベース (University of the Ryukyus-Database for Malformation Syndromes; UR-DBMS) Ver 3.1 画像版は, 総疾患数4,600で, Oxford University PressおよびBirth Defects Information Services Inc.の著作権を使用して約1,000枚の画像情報をもつ。総容量は本体31.2メガで文献14.6メガである。特に文献はすべての文献タイトルをも入力した。この完成にて全国200箇所以上の大学や研究所, 病院で利用されるにおよび, 現在日本で最も利用されている遺伝関連データベースとなった。UR-DBMSは現在も全染色体異常を網羅すべく改訂中である。
 また, ver 3.1の内容は日本語に翻訳しデータブック改訂版として出版し, 付録として日本語UR-DBMSハイブリッドCD-ROMをつけた。
 3. 重度心身障害児の診断におけるパソコンデータベースの応用の研究 (成富研二)
 1993年からスタートした厚生省研究班 (黒川班) のなかで, 従来診断不明であった重度心身障害児にUR-DBMSを応用し, 診断の可能性をさぐる研究をおこなっている。UR-DBMS V3.1の完成により従来診断不明であったもののなかから, 確定診断にいたる症例がでてくる可能性がある。
 4. Sotos 症候群の自然歴に関する研究 (成富研二)
 1994年からスタートした厚生省研究班 (黒木班) では奇形症候群の自然歴を全国集計し検討する作業をおこなうこととなった。琉大の担当は Sotos 症候群であり, 1995年度は全国約60例について, 成因, 症状, 検査成績, 成長曲線の作成, 就学状況などについてアンケート調査し, Sotos 症候群のトータルケアに必要な日本人の基礎データを作成中である。
 5. 染色体顕微切断によるFISH用DNAプローブ作成の研究 (知念安紹, 當間隆也, 成富研二)
 マイクロマニピュレーターを使った染色体顕微切断法により, マーカー染色体全体を顕微切断し, 染色体彩色法による由来同定の研究が進行中である。
 6. 遺伝子の方向を決定するCOD-FISH法の研究 (泉川良範)
 1995年カリフォルニア大学サンフランシスコ校に留学し, 小児科Charles J Epstein教授との共同研究でトランスジェニックマウスの作成を行った。その中で遺伝子 (SOD-1) のマウス染色体上での方向をFISH法を用いて決定するCOD-FISH法を研究した。
 7. 新しい疾患単位の発見 (成富研二, 知念安紹, 泉川良範)
 1995年度はMalpeuch facial clefting syndromeの世界第2例目およびMegalocornea-Mental retardation syndromeの本邦初例を報告した。 また全国の Dysmorphologist が集まった Dysmorphology Conferenceで毎年1回症例検討を行っている。
 8. 重度重複障害児の疫学と医療療育に関する研究
  (高江洲悦子, 平山清武, 神谷鏡子, 平安京美)
 平成5年度より厚生省の受託研究として重度重複障害児の疫学的研究, 長期入院を要する児の医療療育状況に関する研究及び義務教育終了後の処遇状況, 幼児期の療育状況, てんかん病態などについて調査を行ない, 沖縄県の重度重複障害児の実態を明らかにして, その医療的および療育的対策について検討中である。
 9. 小児呼吸器疾患に対するサーファクタント補充療法の臨床的研究 (屋良朝雄, 安里義秀)
 サーファクタント補充療法は, 新生児呼吸窮迫症候群(RDS)に著効を示す。 サーファクタントの質的欠乏を認める他の呼吸器疾患に対して, 本療法を行ない, その臨床的効果および影響について研究調査している。 RDS以外にすでに胎便吸引症候群, 敗血症, 肺炎および胎児循環遺残症さらには乳幼児の間質性肺炎, ARDSに対しても比較的良好な臨床的効果を認めている。 今後も, 疾患の蓄積により本療法の治療効果, さらに適応について検討を加えてゆく予定である。
 10. ファロー四徴症における術前, 術後の右室機能の評価 (城間昇, 呉屋良信, 伊波徹)
 ファロー四徴症のとくに術後の右室機能の評価にまた201Tl心筋シンチグラフィが有用で, 心筋SPECT検査を併用することで, 右室圧が半定量的に測定できる。 術後管理の指標の一つとして, 心臓カテーテル検査成績と比較検討しつつ症例を重ねているところである。
 11. 川崎病の冠血管病変の長期予後の評価 (城間昇, 呉屋良信, 伊波徹)
 川崎病の冠血管病変の非侵襲的評価法の一つとしてペルサンチン負荷201Tl心筋シンチグラフィを施行しているが, 負荷時の心筋の虚血性変化がリアルタイムで描出できる。 現在, 99mTc-MIBIの核種と比較検討中である。 川崎病の冠動脈造影検査をあわせて施行し, その有用性を検討すべく症例を重ねている。
 12. 小児癌の治療における末梢血幹細胞移植と遺伝子治療の研究
  (具志堅俊樹, 百名伸之)
 白血病や固形癌などの小児癌患者の化学療法後の造血回復期に, 顆粒球コロニー刺激因子を用いると末梢血中の造血幹細胞が増加する。 増加した造血幹細胞を血液成分分離装置にて採取して冷凍保存する。 発病時に採取して保存しておいた悪性腫瘍細胞から, 変異癌遺伝子を含むDNA断片を微少顕微鏡切断法により採取する。変異癌遺伝子に対する抗体遺伝子を作成して, ウイルスベクターを用いて先に採取しておいた造血幹細胞に注入する。 悪性腫瘍に対する特異抗体の産生能を持った造血幹細胞が産生されるので, それを患者に輸注する。 以上のような処置により, 悪性腫瘍に対する分子免疫学的な遺伝子治療が可能であり, 現在その基礎的な研究を行っている。 分子生物学的な手法を用いて, 悪性細胞の遺伝子レベルでの変異を造血幹細胞に認識させる分子免疫学的な遺伝子治療であり, 臨床応用が期待できる。
 13. 塗抹染色標本を用いた蛍光 in situ 分子雑種法による血液腫瘍の遺伝子解析の研究
  (百名伸之, 成富研二, 當間隆也)
 骨髄血塗沫標本において, メイ・ギムザ染色により細胞を形態的に同定した後, FISHを行う。初めに正常コントロールを用いて本手法の手技の確立と特異性を確認し, 次に数的染色体異常を持つ急性白血病および骨髄異形成症候群の検体について分析し, 細胞の形態学的特徴と遺伝学的特徴との関連を明らかにした。 従来の細胞化学染色により蓄積されてきた腫瘍クローンの形態学的特徴と遺伝学的特徴の関連が, 個々の細胞について容易に検討できる。腫瘍細胞クローンが, どの血液細胞系統に帰属し, どこまで分化しているのかが明らかとなる。 この結果は, 染色体異常と白血化の病態解明に繋がるものである。 また, 臨床的には白血病寛解期における微小残存腫瘍の検出が可能となり, 治療効果や予後の判定に応用される。
 14. 白血病および小児癌の診断および治療法の研究 (百名伸之, 具志堅俊樹, 知名耕一郎)
 小児の白血病および固形腫瘍の診断法および予後因子の解析, 治療法および合併症への対応法, 二次癌の発生や内分泌障害などの晩期障害の予防法の臨床研究を多施設共同研究で行っている。また病名の告知や末期を含む患児への援助などの臨床心理学的研究を行っている。
 15. 下垂体性小人症患児における成長ホルモン補充療法の効果の研究
  (平山清武, 具志堅美由紀, 池間尚子)
 成長ホルモンの分泌負荷テストで成長ホルモンの分泌不全を呈する下垂体性小人症患児に対し, 遺伝子組み替えヒト成長ホルモン製剤による補充療法を行ない, その効果および副作用の継続的な検討を行なっている。 また, 思春期早発症における診断について, 臨床統計的観察を行なっている。
 16. 慢性腎炎の種々の治療効果についての臨床的検討 (金城紀子)
 ステロイド療法のみでは治療に難渋する症例に対し, 病理学的検討を加えながら, 抗凝固療法及び免疫抑制剤の使用などの評価を行なっている。
B.研究業績
 1. 原著
G95001: Chinen Y, Naritomi K (1995) Malpeuch facial clefting syndrome in a Japanese boy with cardiac defects. Jpn J Hum Genet 40 4 335-338.
G95002: Nishi Y, Shizume K, Hibi I, Suwa S, Takano K, Tanaka T, Ogawa M, Fujieda K,Gushiken M, et al (1995) Experience in Growth Hormone Therapy in Noonan Syndrome. Clin Pediatr Endocrinol 4 67-72.
G95003: 屋良朝雄, 米納加代子, 喜納恭子, 宮城清美, 平安京美, 平山清武, 米納浩幸, 外間実裕, 我喜屋宗久, 小田正美 (1995) Continuous arteriovenous hemofiltration (CAVH) 療法を施行した急性腎不全の超未熟児の1例. 小児臨 48 2016-2020.
 2. 総説
S95001: 成富研二 (1995) コンピュータによる診断支援システム.小児内科 27 1 99-103.
S95002: 成富研二 (1995) 症候 (症状)から見た小児救急患児への対応. 23 咬傷・刺傷. 小児臨 48 12 2959-2964.
S95003: 成富研二 (1995) トキソプラズマ症. 小児診療 58(増刊号) 194-196.
S95004: 平山清武, 識名節子, 森忠繁 (1995) 思春期の不定愁訴とその対応−保健室頻回来室者の実態および心身の不適応徴候を訴える児童・生徒の対する学校の対応について. 青少年問題 42 34-39.
 3. 著書
T95001: 成富研二 (1995) 先天性奇形症候群および遺伝性疾患データブック 改訂第2版. 診断と治療社.東京.1971pp.
 4. 報告
H95001: 平山清武, 識名節子, 仲田行克 (1995) 保健室頻回来室者の実態および心身の不適応徴候を訴える児童・生徒に対する学校の対応について.厚生省心身障害研究 親子のこころの諸問題に関する研究 平成6年度研究報告書 244-245.
H95002: 成富研二 (1995) Sotos 症候群の自然歴に関する研究. 厚生省心身障害研究 親子のこころの諸問題に関する研究 平成6年度研究報告書 244-245.
H95003: 喜納恭子, 平山清武, 識名節子, 喜久山千賀子, 森忠繁 (1995) 小学校高学年および中学生における心身の不適応徴候と肥満度との関連について. 日小児会誌 99 199.
H95004: 成富研二 (1995) 遺伝性疾患パソコン・データベース (UR-DBMS) (その2) . 日小児会誌 99 210.
H95005: 具志堅俊樹, 百名伸之, 知名耕一郎, 仲宗根元恵, 渡久地鈴香, 平山清武 (1995) 汎血球減少の自然軽快後に発症したFAB分類M0の急性骨髄性白血病の1例. 日小児会誌 99 280.
H95006: 島袋千佳子, 劉宜, 金城紀子, 神谷鏡子, 平山清武, 池間玲子 (1995) 腎炎で発症した全身性エリトマトーデスの1女児例. 日小児会誌 99 399.
H95007: 呉屋良信, 城間昇, 武富博寿, 安里義秀, 池間尚子, 金城紀子, 大城聡, 成富研二, 平山清武 (1995) 再発性心外膜炎の1例 -コルヒチンによる治療について-. 日小児会誌 99 473.
H95008: 百名伸之, 知名耕一郎, 具志堅俊樹, 楚南盛章, 平山清武 (1995) G-CSF 投与中止後も3系統血球の改善を維持している重症型再生不良性貧血の1例. 日小血会誌 9 305.
H95009: 百名伸之, 知名耕一郎, 具志堅俊樹, 平山清武, 加藤俊一 (1995) May-Grunwald-Giemsa 染色塗抹標本にFISH 法を行い細胞系統別に遺伝学的解析を行ったAML / TMDSの1例. 臨血 36 1062.
H95010: 屋良朝雄, 米納加代子, 宮城清美, 平安京美, 平山清武 (1995) ミルクアレルギーで発症したと思われる成熟児壊死性腸炎の1例. 日未熟児新生児会誌 7 1465.
H95011: 具志堅美由紀, 池間尚子, 成富研二, 平山清武 (1995) 成長ホルモン分泌不全性低身長の検査と治療の検討. Pharma Medica 13 224.
H95012: 土橋治, 関根勇夫, 岡敏明, 武田武夫, 小泉晶一, 清水宏之, 窪田博道, 山村泰一, 具志堅俊樹, 他3名 (1995) 治療終了後の小児癌,白血病患者における慢性肝障害の検討 -特にC型肝炎に関して-. 日小血会誌 9 259.
 5. その他
M95001: パソコンデータベース Naritomi K (1995) University of the Ryukyus-Database for Malformation Syndromes (UR-DBMS) Ver. 3.1 Picture. Congenital Anomaly Research Group, Department of Pediatrics, University of the Ryukyus School of Medicine., Okinawa.
M95002: 具志堅俊樹, 知名耕一郎, 百名伸之, 平山清武, 久田友治, 井上治, 新垣宣貞, 伊藤悦男 (1995) 胸部打撲後の胸腔内出血で発見されたEwing肉腫の1例. 日本小児がん学会雑誌 32 52-55.
M95003: 具志堅俊樹, 知名耕一郎, 百名伸之, 平山清武, 伊藤悦男 (1995) 小児固形腫瘍の発見契機に関する検討. 日本小児がん学会雑誌 32 130-133.
M95004: 大山佐知子 (1995) 中学生の不適応徴候に関する研究−数量化II類を用いての検討−. 琉球大学大学院平成6年度修士論文集.
M95005: 片山ゆかり, 玉城貴志子, 南紀三子 (1995) 中学生および高校生における心身の不適応徴候と肥満度との関連について. 琉球大学医学部保健学科卒業論文集 22 65-68.
M95006: 南紀三子, 玉城貴志子, 片山ゆかり (1995) 保健室頻回来室者に関する研究〜保健室頻回来室者の実態について〜. 琉球大学医学部保健学科卒業論文集 22 69-72.
M95007: 玉城貴志子, 片山ゆかり, 南紀三子 (1995) 心身の不適応徴候を持つ児童・生徒への対応に関する研究〜養護教諭へのアンケートより〜. 琉球大学医学部保健学科卒業論文集 22 73-76.