解剖学第一講座


A.研究課題の概要

 1. ヒト中枢神経組織発達の形態学的指標とMRI像との対応 (平田幸男, 山口慶一郎, 野原敦)
 これまで, この問題については, 主として胎児期のそれについて, 細胞構築像, ゴルジ像, 白質の有髄化等を指標として比較してきたが, 昨年度, 凍結切片の偏光による観察によって極めて容易に大型の脳切片でも有髄神経の存在や有髄化の程度を観察出来ることが分かったので, 現在はこの方法によって, 新生児期から小児期にかけての剖検例を対象に, 放射線医学講座と共同で, まずMRI撮像を行った後, その脳の各部から凍結切片を作成, それを偏光顕微鏡撮影, 偏光マクロ撮影を行い, 所見を比較検討している。 このことによって胎児期から生後発達までを通して脳のMRI像の解釈, 診断の際のより正確な形態学的基盤を提供できることになると期待される。
 2. ヒト骨格の形態学的研究
  2-a. 南西諸島人骨格の形質人類学的研究 (土肥直美, 平田幸男, 瑞慶覧朝盛, 泉水奏)
 南西諸島人の系統関係を明らかにすることは, 現代日本人の成り立ちを知る上で非常に重要な意味を持っている。 一般的にはアイヌと南西諸島人は近縁で, どちらも縄文人の直接の子孫であると考えられているが, 南西諸島人そのものの研究はまだまだ不十分であり, 地域的な変異や時代的な変化の過程など, 解明されていない課題は多い。また, 分析法によって異なる結果が得られるという問題点も残されている。 そこで, 南西諸島全体の総合的な調査・研究が必要と考え, 各地域, 各時代の人骨資料の収集および調査を行っている。さらに, 東北大学・国立遺伝学研究所・鹿児島大学・札幌大学との総合研究プロジェクトによって, 骨形態だけではなく骨から抽出される遺伝子や放射性炭素同位体などの解析を行い, 南西諸島人の総合的な解明をめざしている。
  2-b. 骨形態の遺伝性および環境効果に関する計測的研究 (土肥直美)
 骨形態に表れる遺伝的効果と環境効果の関係を知るために, 血縁関係の明らかな家系骨格資料を用いて数量的解析を行っている。 その結果, 遺伝的情報と環境への適応的情報の表れ方が骨の部位や身体の部位によって異なることが明らかになった。 そこで, これらの関係をさらに日本人骨格形態の分析に適用し, 系統関係や生活との関係を明らかにしようとしている。
 3. 脊椎動物の骨盤部における神経支配様式の発生学的および比較解剖学的検索 (瑞慶覧朝盛)
 鶏胚を用いて骨盤部の神経形成過程を調べた結果, 5日胚で総排泄腔両側に鳥類特有の腸神経と交感神経および副交感神経の交通が出来, それは7日胚で形成され始める直腸の腸壁神経叢と最終的に交通を持つようになる。その腸壁神経叢の形成およびそこでの各種神経伝達物質の発現は直腸背側にある腸神経からの神経枝が直腸に到達した後起こる。 また, 総排泄腔における神経支配は, 直腸開口部の両外側に出来る骨盤神経叢と腸壁神経叢からの二重支配を受けていると考えられる。 VIP (Vasoactive Intestinal Polypeptide) やアセチルコリンエステラーゼ等の神経関連物質の発現は, 腸壁神経叢より早い時期に骨盤神経叢で起こることがわかった。 今後は腸壁神経叢,骨盤神経叢および腸神経におけるコリン作動性ニューロンとアドレナリン作動性ニューロンの発現様式と生理学的意味を明らかにしたい。総排泄腔を持つ他の脊椎動物についても検索する予定である。
 4. 両生類における中枢神経の髄鞘形成の研究 (泉水奏)
 髄鞘は神経の機能にとって重要な働きをしており。 またヒトを含め多くの動物で発生の進行につれて有髄線維が増加してくることが知られている。発生過程を詳細に追跡できる無尾両生類 (アフリカツメガエル)を材料として用い,中枢神経における髄鞘形成を研究している。 光学顕微鏡レベルでは, 最も早く有髄化を始めるのは摂餌開始し遊泳生活に入った直後のstage 46-47幼生であり, Mauthner細胞の軸索と, その周囲を延髄吻端から脊髄にかけて縦走する神経線維に有髄線維が観察されるようになりその後, 有髄線維の数は増加し, 脊髄側索および脊髄後索にも有髄線維が観察されるようになる。 しかしstage 49においては延随より吻側部及び脊髄尾側端では有髄線維は見いだされない。 現在, 髄鞘に特異的なミェリン塩基性蛋白質 (MBP)に対する抗体を用い, 免疫組織学的に髄鞘の形成と, MBP発現の時間的, 部域的関係を調べている。
B.研究業績
 4. 報告
H9501: Doi N, Hirata Y, Zukeran C, Sensui N (1995) Facial flatness measurements of the Nansei islanders crania. Acta Anat Nippon 70 S138.
H9502: 土肥直美 (1994) 久米島の風葬墓人骨. 久米島総合調査報告書. 沖縄県立博物館, 169-176.
H9503: 土肥直美 (1994) 小松原堤古墳出土の人骨について. 九州横断自動車道関係埋蔵文化財調査報告書29, 福岡県教育委員会, 108-115.
H9504: 土肥直美 (1994) 妙見墳墓群出土の人骨について. 九州横断自動車道関係埋蔵文化財調査報告書 29, 福岡県教育委員会, 86-99.
H9505: Hirata Y, Nohara A, Doi N (1995) Is the white matter "white"? Acta Anat Nippon 70 77.
H9506: Hirata Y, Doi N, Nohara A (1995) Why is the white matter "white"? Acta Anat Nippon 70 s66.
H9507: 野原敦, 湯佐祚子, 平田幸男 (1995) 急速減圧ラット脳における経時的変化 第2報. 日高圧誌 30 25.
H9508: Yamashita J, Hayashi S, Furukawa S, Hirata Y (1994) Abnormal intermale aggression associated with small submandibular glands in mice with obesity induced with goldthioglucose (GTG). 7th Intern Congress on Obesity. Toronto. Abs 21.
H9509: Yamashita J, Hayashi S, Hirata Y (1995) Possible role of the submandibular gland in the development of obesity in mice. 7th Asian Congress of Nutrition. Beizing, China. Abst 208.