耳鼻咽喉科学講座


A.研究課題の概要

 1. 末梢および中枢前庭機能障害の診断区分に関する研究
  (宇良政治, 安田忍, 大輪達仁, 中村由紀夫)
 眩暈は末梢前庭性および中枢性に大分されるが, 自発眼振の見られない症例ではその診断に苦慮することがよくある。 さらに末梢障害でも検査時期によりすでに回復している場合や中枢性に代償されている場合もあり, 病期診断に於いても判定に苦慮することもしばしばである。
 電気眼振検査はこれらの診断・判定にとって有力な診断手技であるが, 重要な眼球運動の緩徐相速度などを定量的に正確に計測するには膨大な時間と労力とが必要となる。
 そこで本研究は以下の段階を経て効率の良い, しかも正確な検査の確立と眩暈症例の的確な診断をめざすものである。
  1) マイクロコンピューターによる眼振波形のon line処理
  2) 検査結果の定量的評価と定性的評価の提示方法の工夫
  3) 正常値の作成
  4) 加齢の及ぼす影響の検討
  5) 前庭機能障害の中枢性代償の検討
  6) 検査結果の総合評価から, 疾患区分のために特に有用な検査の検討
  7) 判別分析を用いた疾患区分の検討
 2. モルモット蝸牛血流と聴覚機能に関する研究
   (宇良政治, 唐安洲, 安田忍, 大輪達仁, 中村由紀夫)
 レーザー血流計による蝸牛血流の変化と蝸電図, ABR, eABRを指標に各種難聴動物モデルにおける病態の研究を行なう。
  1) 内耳道血管神経圧迫による聴神経腫瘍モデルにおける変化
  2) Carbogenの及ぼす影響
  3) 鼓室内薬物投与の及ぼす影響
  4) 交感神経系の及ぼす影響
  5) 騒音の及ぼす影響 等
 3. 高度難聴における聴覚機能評価
   (宇良政治, 唐安洲, 山内昌幸, 安田忍, 大輪達仁, 中村由紀夫)
 蝸電図と聴性脳幹反応は内耳機能, 後迷路機能の評価に有用である。 しかしながら, 内耳機能が高度に障害されている場合では聴性脳幹反応は得られず, 従って後迷路機能の評価はできない。人工内耳が行なわれる現在では, 内耳機能の高度障害例での後迷路機能評価が重要となる。後天性の障害では通電による音感覚の有無による自覚検査があるが先天性聾小児では困難である。
 このため, 通電刺激によるアブミ骨筋反射や脳幹反応などの他覚的所見による評価法の確立が必要である。
 そのために, 種々の難聴動物モデルと人工内耳の症例により, 高度内耳障害例における後迷路機能の評価法の確立と臨床利用をめざす。
 4. 皮弁血流の改善 (楠見彰, 新濱明彦)
 1976年, Vane.J.Rらに発見されたPGI2は, PGE1以上に強力な抗血小板作用と血管拡張作用を併せもつ生理治性物質としてASOに対する臨床的有効性が期待されていながら, 極めて化学的に不安定なため, 臨床的使用が困難であった。 しかし, このPGI2の強力な作用をもった誘導体が最近合成され, 臨床的に使用が可能となった。 この誘導体物質の化学的安定性に注目し, 私共は皮弁血行改善及び外用薬としての効果の有無, 経皮吸収の程度について, レーザードップラー法により効果の検討を行っている。 末梢血行改善作用による潰瘍等の組織修復効果についても検討中である。
 5. 微少血管吻合器の頭頸部領域における利用 (楠見彰)
 現在, 頭頸部外科領域における再建にマイクロサージャリーによる組織移植が広く行われるようになった。 一方で本県のように高齢患者の占める割合が高く, 手術時間の短縮が重要な課題である。 この血管吻合時間を安全かつ短縮するために, 微少血管吻合器の利用に注目し, 平成5年7月より動物実験を開始, 現在, 臨床応用と適応範囲の拡大について検討を行っている。
 6. 鼻腔悪性リンパ腫の基礎的解析 ―免疫治療にむけて― (古謝静男)
 悪性リンパ腫は一般に予後不良であり, 特に進行性鼻壊疽の形態をとる鼻腔の悪性リンパ腫は中でもさらに予後不良である。 この疾患はPRを含めて未だその本態も明らかにされておらず, 病理診断さえも困難な疾患であり, 診断の遅れが予後不良の一因でもある。特に鼻腔の PR は世界的にも発生がモンゴロイドに限られており, 中でも韓国, 中国南部, 沖縄に多発する。この疾患の偏在する機序を解明すると同時に本態の解明を行う。この PR の組織形態を示すものは NK cell 由来の悪性リンパ腫であり, ある特定あるいは限られたHLA に関連して生じることが予想される。 
  1) PR 患者の HLA の解析
 PR の発生に EBV が関与していることから PR 患者がある特定の HLA type を持つ可能性があり, その HLA type を明らかにする。
  2) 光顕病理上 PR を示す組織の NK 活性の測定
 PR の構成腫瘍細胞は最近 NK cell 由来であると指摘されている。これは細胞の持つ抗原を免疫染色して得られた所見である。われわれは生きた腫瘍組織を用いて腫瘍細胞の NK 活性を測定し, PR の構成細胞が NK cell 由来であることを明らかにする。 
 7. 側頭骨ならびに蝸牛の解剖組織学的検討ならびにコンピューターによる3次元再構築
    (糸数哲郎)
 ヒト側頭骨より連続切片を作製し, HE染色後トレーを行いデジタイザーにてコンピュータに入力, 3次元再構築を施行した。蝸牛, 三半規管, 鼓室の形態について検討し, 蝸牛外人工内耳と関連して, 鼓室壁, 卵円窓, 蝸牛との関係について3次元的に検討した。鼓室壁より蝸牛までの距離を計測, 最短部を検索し, 卵円窓からのそれぞれの距離を測定。蝸牛基底板の対応について検討し, 蝸牛外人工内耳との関連性について検討している。
 8. 頭頸部悪性腫瘍における化学療法の役割 (糸数哲郎)
 頭頸部悪性腫瘍の術後, 局所再発ならびに遠隔転移に対する化学療法の役割について検討する。頭頸部悪性腫瘍の術後, カルボプラチンを点滴静注を2ないし3クール施行し, 局所再発, 遠隔転移に対する効果を検討中である。現在喉頭癌4例, 下咽頭癌2例, 中咽頭癌3例については化学療法が終了しており, 今後症例を重ねて検討する予定である。
 9. 細胞障害性T細胞の誘導に及ぼすヘルパー細胞と刺激細胞の影響 (真栄城徳秀)
 マウスにおいてリンパ球混合培養(MLC)を行うと応答細胞から刺激細胞に対して特異的な細胞障害性T細胞(CTL)が誘導され, このシステムに骨髄細胞添加を行うと応答細胞に対してヘルパー様作用を示す事は既に報告されている。今回はヘルパー細胞と刺激細胞とが同じマウスの場合と異なるマウスの場合とでCTL誘導に違いがあるのか検討中である。即ち, 以下の4通りについてCTL誘導を行っている。
    応答細胞  ヘルパー細胞  刺激細胞
    A   A  =  A
  ◆ A   A  ≠  B
    A   B  ≠  A
  ぁ A   B  =  B
 10. 頭頸部領域における3D-CTの応用 (新濱明彦, 楠見彰, 山里将司)
 3D-CTにより再建時におけるシュミレイション手術, 術前, 術後の形態の立体的変化の把握が容易になってきた。とくに頭頸部外科領域における応用が注目されている。
 現在以下のことについて臨床応用面での検討をおこなっている。
  眼窩壁骨折
 これまでの成果により眼窩壁骨折における眼筋の形態的変化を画像的に描出することが可能となってきた。 これによりこれまで遷延する眼球運動障害の原因解明や手術時期の判定により正確な評価がえられることが期待されている。
  顔面神経の走行
 側頭骨内における神経走行の立体的把握, とくに顔面奇形における走行異常の評価について検討中。
B.研究業績
 1. 原著
G9512: 相原正記, 脇坂長興, 伊沢宏和, 石田寛友, 荻野洋一, 楠見彰 (1995) 埋没耳手術 (いわゆる猫耳皮弁法) の検討 -長期的経過を含めて-. 耳鼻・頭頸外科 67 139-142.
G9513: 野里栄治, 山田護, 宮里浩, 仲地厚, 徳嶺章夫, 草野敏臣, 武藤良弘, 糸数哲郎, 古謝静男, 野田寛 (1995) 高カルシウム血症を呈した喉頭癌肝転移の1例. 臨と研 72 917-921.
G9514: 小川和彦, 戸板孝文, 末山博男, 滝澤義和, 垣花泰政, 久志亮, 原竜介, 古謝静男, 中野政雄 (1995) 早期声門部喉頭癌の放射線治療. 日癌治療会誌 30 764-770.
G9515: Tomita Y, Ohsawa M, Mishiro Y, Kubo T, Maeshiro N, Kojya S, Noda Y, Aozasa K (1995) The Presence and Subtype of Epstein-Barr Virus in B and T Cell Lymphomas of the Sino-Nasal Region from the Osaka and Okinawa Districts of Japan. Lab Invest 73 190-196.
G9516: 糸数哲郎, 古謝静男, 真栄城徳秀, 松村純, 安田忍, 楠見彰, 宇良政治, 野田寛 (1995) 当教室における80歳以上の頭頸部悪性腫瘍手術症例についての検討. 耳鼻・頭頸外科 67 662-665.
G9517: 古謝静男, 糸数哲郎, 真栄城徳秀, 松村純, 真栄田裕行, 安田忍, 幸地綾子, 野田寛 (1995) Tegafur坐剤投与後の5-FU組織内濃度と局所制御. 癌と化療 22 1047-1050.
G9518: 糸数哲郎, 古謝静男, 真栄城徳秀, 山内昌幸, 江洲浩明, 幸地綾子, 楠見彰, 宇良政治, 野田寛 (1995) 当教室における耳下腺悪性腫瘍の検討. 耳鼻と臨 41 757-760.
G9519: 小川和彦, 戸板孝文, 垣花泰政, 末山博男, 古謝静男, 真栄城徳秀, 砂川元, 新崎章, 中野政雄 (1995) 舌癌の組織内照射 -頸部制御を中心に-. 日癌治療会誌30 1859-1867.
 2. 総説
S9501: 宇良政治 (1995) 先天性高度難聴児と人工内耳. JOHNS 11 585ー591.
S9502: 青笹克之, 星田義彦, 古謝静男 (1995) [トピックス]ウェゲナー肉芽腫症の診断と治療 2.ウェゲナー肉芽腫症の病理. 耳喉頭頸 67 918-924.
 4. 報告
H95401: 真栄田裕行, 楠見彰, 山内昌幸, 金澤丈治, 伊波忠 (1995) 先天性副腎性器症候群に伴う膣閉鎖に対して膣形成を行った1症例. 日形会誌 15 133.
H95403: 幸地綾子, 宇良政治, 山内昌幸,具志堅俊樹 (1995) 側頭骨浸潤をきたした小児白血病の1症例. 日耳鼻 98 1208.
H95404: 山里将司, 宇良政治, 安田忍, 野田寛 (1995) Waardenburg症候群の4症例. 日耳鼻 98 1208.
H95405: 安田忍, 宇良政治, 山里将司, 真栄田裕行 (1995) 最近経験した外リンパ瘻の4例. 日耳鼻 98 1209.
H95409: 真栄田裕行, 楠見彰, 山内昌幸 (1995) 高気圧酸素療法による皮弁救済経験. 日耳鼻 98 1210.
H95410: 饒波正吉, 長田紀与志, 下地善久 (1995) 癌化した舌白斑症3例. 日耳鼻 98 1210.
H95411: 糸数哲郎, 古謝静男, 真栄城徳秀, 江洲浩明, 幸地綾子, 野田寛 (1995) 当教室における二重癌についての検討. 日耳鼻 98 1210-1211.
H95413: 真栄城徳秀, 古謝静男, 幸地綾子, 野田寛, 知念信雄 (1995) 術後15年をへて下咽頭に再発した Thyroid Papillary adenoca rcinoma の1例. 日耳鼻 98 320.
H95414: 真栄田裕行, 楠見彰, 糸数哲郎, 真栄城徳秀, 山内昌幸 (1995) 眼瞼再建における鼻中隔軟骨の利用. 日耳鼻 98 320.
H95415: 楠見彰, 山内昌幸, 唐安洲, 真栄田裕行 (1995) 頭頸部における微小血管吻合器の使用経験. 日形会誌 15 370.
H95416: 糸数哲郎, 真栄城徳秀, 江洲浩明, 山里将司, 古謝静男, 野田寛 (1995) 当教室における80歳以上の頭頸部悪性腫瘍手術症例についての検討. 日耳鼻 98 497.
H95417: 古謝静男, 糸数哲郎, 真栄城徳秀, 幸地綾子, 野田寛 (1995) テガフール坐剤使用による組織内5-FU濃度と術後成績. 日耳鼻 98 497.
H95418: 幸地綾子, 古謝静男, 山内昌幸, 楠見彰, 宇良政治, 野田寛 (1995) 当教室における聴器癌13例についての検討. 日耳鼻 98 497.
H95422: 真栄田裕行, 楠見彰, 山内昌幸, 下地善久 (1995) 眼球を温存した上・下眼瞼亜全摘症例の経験. 日形会誌 15 607.
H95426: 与儀淳子, 下地芳恵, 高良苗子, 野田寛, 金城公代, 宮城恵, 饒波正吉, 森田知子, 兼城みなこ, 渡口明, 金城美智子, 山口京子, 知念信雄 (1995) 琉大グループによる補聴相談の統計的観察. 日耳鼻 98 1211.
H95427: 冨里則子, 宇良政治, 阿波連祐子, 宮平直美, 長堂礼子, 仲村博美, 野田寛 (1995) 当科における補聴器外来の現況. 日耳鼻 98 1211.
H95429: 安田忍, 長田紀与志, 饒波正吉, 宮城嗣名, 仲吉博彦 (1995) 反回神経麻痺を初発症状とした Ramsay Hunt syndrome の1例. 日耳鼻 98 1212.
H95430: 江洲浩明, 楠見彰 (1995) 進行性顔面片側萎縮症の1症例. 日耳鼻 98 1212.
H95432: 唐安洲, 宇良政治, 山内昌幸, 野田寛 (1995) Carbogen 吸入と蝸牛虚血による聴覚機能の変化. 日耳鼻 98 1213.
H95434: 真栄田裕行, 又吉重光, 下地善久 (1995) 若年性声帯乳頭腫の1症例. 日耳鼻 98 1213.
H95435: 下地善久, 真栄田裕行, 又吉重光, 松村純 (1995) 副鼻腔に発生した多形腺腫の1症例. 日耳鼻 98 1213.
H95436: 糸数哲郎, 古謝静男, 真栄城徳秀, 松村純, 野田寛 (1995) 当教室における80歳以上の頭頸部悪性腫瘍手術症例についての検討. 日耳鼻 98 1214.
H95437: 松村純, 糸数哲郎, 真栄城徳秀, 幸地綾子, 古謝静男, 野田寛 (1995) 当教室における耳下腺悪性腫瘍の検討. 日耳鼻 98 1214.
H9501: 江洲浩明, 楠見彰, 山内昌幸, 真栄田裕行, 太田憲輔, 神山琢郎 (1995) 遺伝性掌蹠角化症の1例. 日形会誌 15 788.
H9502: 唐安洲, 宇良政治, 山内昌幸, 野田寛 (1995) Carbogen投与と蝸牛虚血による聴覚機能の変化. 日耳鼻 98 1603.
H9505: 宇良政治, 山里将司, 山内昌幸, 唐安洲, 安田忍, 野田寛 (1995) 当科における蝸牛通電刺激検査. 日耳鼻 98 1931.
H9506: 真栄田裕行, 真栄城徳秀, 糸数哲郎, 古謝静男, 野田寛 (1995) 同時性三重癌の2症例. 日耳鼻 98 1933.
H9507: 新濱明彦, 楠見彰, 江洲浩明, 山内昌幸, 真栄田裕行, 野田寛 (1995) 局所皮弁による頭蓋底再建の経験. 日耳鼻 98 1933.
H9516: 新濱明彦, 楠見彰, 山内昌幸, 真栄田裕行, 下地善久 (1995) Bi-lobed Flapによる外鼻再建の経験. 日形会誌 15 855.
H9520: 戸板孝文, 小川和彦, 垣花泰政, 古謝静男, 真栄城徳秀, 中野政雄 (1995) 下咽頭癌の放射線治療 -原発巣制御に関する予後因子の検討-. 日癌治 30 1169.
H9521: 小川和彦, 戸板孝文, 古謝静男, 垣花泰政, 中野政雄 (1995) 中咽頭癌の放射線治療 -T stage別の原発巣制御を中心に-. 日癌治 30 1524.
H9523: 山内昌幸, 楠見彰, 新濱明彦, 真栄田裕行, 下地善久 (1995) 前頭洞炎における冠状切開の有用性. 日鼻科 34 230.
H9523: 楠見彰, 山内昌幸, 新濱明彦, 真栄田裕行, 下地善久 (1995) Bi-lobed flapによる外鼻再建の経験. 日鼻科 34 313.
H95p01: 山里将司, 宇良政治, 真栄田裕行, 野田寛 (1995) Waardenburg症候群の二家系4症例. 日耳鼻 98 1716.
 5. その他
M9522: 冨田裕彦, 大澤政彦, 古謝静男, 橋本道子, 菅野祐幸, 安永豊, 青笹克之 (1995) 大阪および沖縄地区の鼻腔リンパ腫におけるEpstein-Barrvirusの検討. 第53回日本癌学会総会記事 531p.
M95w01: Tomita Y, Ohsawa M, Kojya S, Aozasa K (1995) Epstein-Barr Virus in T- and B-cell Lymphomas of the Sino-Nasal Region. The Fourth Japanese-Korean Lymphoreticular Workshop 365-374.