泌尿器科学講座


A.研究課題の概要

泌尿科学教室は, 臨床に関連した研究に重点をおいており, 毎日の臨床活動から出る疑問から出発した新しい治療法の開発や実験的研究を中心としている。中でも尿路結石の成因の研究, 腎不全の病態と治療(透析と移植), 腎および膀胱の癌の成因と診断, 集学的治療法, コンピュータを応用した泌尿器科的各種診断及び治療技術の開発に関しては長い実績がある。腎不全の研究は, 最も歴史が古く, 経験の裏付けのある地道で臨床上有用な研究が多い。癌の研究では免疫強化療法に新機軸を開き, また腎の嚢胞化と発癌に関しては, 他7大学8講座と共同研究を実施している(合計3年間の総合研究Aなど)。コンピュータを利用した数々の画期的診断技術や治療システムを実現している。また沖縄で多い尿路結石の原因探求も重要なテーマとなっている。現在, 尿中の結石形成因子, 飲料水, 寝相など多角的方面より検討している。

 1. シングルニードル透析法による透析効率の向上 (秦野直, 小田正美, 与那覇博隆)
 腎不全患者における透析療法の予後を決定するものに, シャントの寿命がある。通常透析時に, シャントに2本の針を刺している。これを1本ですむようにすると, シャントの寿命が飛躍的に延びることが期待される。そこでシングルニードルによる透析が求められている。しかしながら従来の方法では, 効率がきわめて悪いことが問題になっている。そこで基礎的な問題に立ちかえり, 血管内での流体力学的な解析を行い, バルブの開閉をコンピュータでコントロールすることにより, いかに効率よく透析するかを研究している。
 2. 腎移植 (小川由英, 小山雄三, 宮里朝矩, 島袋浩勝, 新里博)
 末期腎不全患者を対象に腎移植術(生体, 死体腎)を施行し, 適切な管理法を体得しながら, 新しい治療法を開発し, 生着率, 生存率を向上させ, 安全に透析を離脱し, quality of lifeの向上を目指している。 また小児腎移植やABO血液型不適合腎移植も積極的に実施している。さらにラットを用いた腎移植およびin vitroでの実験を行い, 新しい免疫抑制法の開発を模索中である。
 3. 透析患者の免疫能 (小川由英, 宮里朝矩, 向山秀樹)
 腎不全患者, および血液透析者の免疫能の低下が知られている。 一方, 腎に嚢胞が多発しやすく, しかも腎癌の発生率が極めて高い。 そこで透析患者の免疫能, 特にサイトカイン産生異常や腫瘍細胞障害能の低下と発癌について検討を加えている。
 4. 腎の嚢胞化に関する研究 (當山裕一, 小川由英)
 腎の嚢胞化に関しては上皮成長因子, サイトカインなどが関与し, 腎癌の合併も問題である。共同研究での実績のもとにさらに研究を続けていきたい。
 5. 人工知能による診断システムの開発 (秦野直, 小田正美)
 尿路系の異常を人工知能により, 診断しようとする研究である。
 現在ルールベースのエキスパートシステム (シェル) を使用し, 膀胱内圧尿流率の同時測定法を診断に応用し, 専門家と同等な診断能力を目指している。 またニューヨーク医科大学との共同研究により, インターネットを利用し, 分散型知識ベースによるエキスパートシステム の構築を予定している。
 6. 内視鏡用3次元マッピング装置の開発 (秦野直, 我喜屋宗久, 与那覇博隆)
 従来の内視鏡検査は, あたかも肉眼で見たかのように対象を観察できるが, 実際に見たものを計測することができないという根本的欠点があった。この内視鏡にコンピューターを連動することにより, 計測機能を付加しようとする研究を行っている。現在基礎的な検討を終え, 実用段階に達するところである。
 7. 尿流動態検査 (秦野直, 知念善昭)
 尿路の異常を力学的に解析し排尿障害, 尿失禁などが, どのような病態によって生じるかを明らかにしている。排尿障害については, 膀胱内圧と尿流率を同時に測定し, その結果を流体力学的なアプローチにより, コンピュータ解析している。
 8. 寝返りと各種疾患との関係 (秦野直, 小田正美)
 半導体メモリを用いたポータブル型寝返り測定器を当教室で開発した。本装置を用い各種疾患と寝返りとの関係を調べるためデータを収集中である。現在尿路結石, 透析患者のデータを収集している。尿路結石の発生と寝返りが関係している可能性がある。
 9. 尿路結石の発生 (小川由英, 翁長朝浩, 當山裕一)
 尿中の結石形成因子の測定とその物質の過飽和状態の測定により結石形成のリスクファクターの解析を行っている。また予防として飲料水, 特にミネラルウォーターに注目して研究を進めている。 現在, HPCEを用いたコンピュータ制御の全自動分析装置を用いて, 多量の尿検体を分析している。
 10. 骨髄未熟細胞の免疫能と腎癌の治療 (小川由英, 向山秀樹, 宮里朝矩, 大城吉則)
 骨髄に見られる未分化細胞の特殊な免疫能を利用して, 腎細胞癌特異性細胞障害性T細胞の誘導を実験動物にて検討し, 腎癌の免疫療法に臨床応用させる。
 11. インポテンスの診断, 治療 (小川由英, 外間実裕)
 インポテンスの原因をさまざまな角度より検討し, 診断, 治療に結び付ける研究を行っている。疫学的, 統計的な手法を行い, いかなる因子がインポテンスに関係するかを検討している。
 12. 超精密尿流計の開発 (秦野直, 小田正美, 新里博)
 現在の尿流計は誤差が多く, エネルギー理論に基づく精密な尿流動態, 解析には適していない。そこで誤差を生じない全く新しい理論による尿流計を開発中である。本尿流計は回転ディスク法の範疇に属するものであるが, 尿を一時的にディスク内に蓄えることを特徴としている。モーターの消費電力のほかに角速度を検出し, コンピュータで尿流量を計算する。(現在試作段階)
 13. 乳糜尿症(小山雄三, 向山秀樹)
 乳糜尿症の疫学的調査を行っている。乳糜尿症では悪性腫瘍が多発しやすいと言われており, 免疫学的見地からも検討を行っている。
B.研究業績
 1. 原著
G95001: 早川正道, 比嘉功, 大城吉則, 小川由英, 大澤炯 (1995) 腎癌に対するinterferon (IFN) 持続皮下注の臨床経験. 西日泌 57 11-14.
G95002: 宮里朝矩, 大城吉則, 外間実裕, 座波久光, 川上浩司, 小山雄三, 秦野直, 小川由英, 大澤炯 (1995) 新生児・乳児期の腎盂尿管移行部狭窄症による水腎症の臨床的検討. 西日泌 57 253-256.
G95003: 真崎善二郎, 大澤炯, 早川正道, 小川由英 他21名 (1995) 九州における副腎腫瘍 -とくに副腎偶発腫瘍についての統計学的検討-. 西日泌 57 441-447.
G95004: 我喜屋宗久, 大澤炯 他26名 (1995) 琉球大学医学部附属病院泌尿器科における1974年〜1994年の21年間の入院手術臨床統計. 琉球医会誌 15 45-47.
G95005: 諸角誠人, 小川由英 (1995) 実験的蓚酸カルシウム結石症における蓚酸前駆物質に関する研究 -急性投与と慢性投与-. 日泌会誌86 1022-1027.
G95006: 仲地研吾, 仲山實, 山城豊, 川上浩司, 中山朝行, 宮城武篤 (1995) アンケート調査による尿失禁を中心とした泌尿器疾患の実態調査. 沖縄医会誌 34-92.
G95007: 我喜屋宗久, 大澤炯 他25名 (1995) 琉球大学医学部附属病院泌尿器科における1990年〜1994年の5年間の入院手術臨床統計. 西日泌 57 959-965.
G95008: 外間実裕, 當山裕一, 小倉秀章, 比嘉功, 秦野直, 小川由英, 大澤炯, 鈴木信 (1995) 離島検診における性生活調査. 沖縄赤十字病医誌 6 25-28.
G95009: 早川正道, 中島史雄, 比嘉功, 小山雄三, 秦野直, 大澤炯 (1995) 腎細胞癌で隣接臓器合併切除を施行した7症例の臨床的検討. 日泌会誌 86 1302-1305.
G95010: 大城吉則, 新村研二, 与那覇博隆, 山下康洋, 當山裕一, 秦野直 (1995) 膿腎症16例の臨床的検討. 西日泌 57 897-900.
G95011: 川上浩司, 山城豊 (1995) 遺糞症にて尿閉を来たした小児の1例. 沖縄医会誌 34 89.
G95012: 我喜屋宗久, 小川由英, 中井秀郎, 川村猛 (1995) 外尿道口に見られた尖圭コンジローマの3小児例. 西日泌 57 1009-1011.
G95013: 向山秀樹, 小川由英 他10名 (1995) 傍精巣部に発生したFibrous hamartoma of infancyの1例. 西日泌 57 1271-1273.
 2. 総説
S95014: 小川由英 (1995) 尿路結石の基礎と臨床. 琉球医会誌 15 3-5.
S95015: 小川由英, 秦野直, 早川正道, 大澤炯 (1995) 嚢胞の治療. 腎と透析 38 251-255.